持ち主を悩ます鬼を斬った? 天下五剣の1振り「鬼丸国綱」とは(前編)

■「鬼丸」の由来の物語

 次に「太刀 銘 国綱附 革包太刀拵」が「鬼丸」ないし「鬼丸国綱」と呼ばれるに至った物語をご紹介しましょう。これは鎌倉時代末期からはじまり、鎌倉幕府崩壊の原因となった「南北朝の動乱」を題材とした古典文学作品『太平記(たいへいき)』に収録されているものです。

持ち主を悩ます鬼を斬った? 天下五剣の1振り「鬼丸国綱」とは(前編)の画像7北条時政。画像は「Wikimedia Commons」より引用

 それによれば、鎌倉幕府の初代執権であった「北条時政(ときまさ)」は、枕辺に夜な夜な現れる体長30センチほどの小鬼に悩まされていたそうです。時政は何度も加持祈祷を受けたのですが、小鬼にはまったく効果がなく、時政は日に日に衰弱し、果ては病気にかかり寝込んでしまうほどにまで追い詰められます。

 小鬼に悩まされながらも、時政がようやく眠りについたある夜のことです。その夢の中に老人が現れ、自身を「国綱の刀の精である」と名乗りました。そして「汚れた手で触れられたため、刀身が錆びてしまい、鞘から抜け出せない。妖怪を退治したくば、清浄な手で我が身の錆を除くべし」と告げたのです。

 目覚めた時政は老人に言われた通り、国綱の太刀の錆を落とし手入れを行いました。そして「鞘から抜け出せない」という言葉から、太刀を抜き身のまま部屋の柱に立てかけておいたのです。

 しばらくすると、国綱の太刀は誰が触れるでもなく突然倒れ、その刃が近くにあった銀の小鉢に当たります。この小鉢には小鬼の形をした飾りがあったのですが、刀は飾りの小鬼の首をすっぱりと両断していました。これ以降、時政の枕辺に小鬼は現れず、病気もたちまち癒えたといいます。

 小鬼と病気から開放され大変喜んだ時政は、この国綱の太刀に「鬼丸」と名付け、北条家の宝刀として大切に秘蔵したとのこと。この太刀が後に「鬼丸国綱」と呼ばれ、現代に伝わっている、というのです。


 さて、ここまで書いておいて何ですが、この『太平記』による「北条時政と鬼丸命名の物語」は大きな矛盾点が存在する、よって鬼丸と名付けられた由来としては非常に疑わしいものなのです。その矛盾点や鬼丸の持ち主の来歴などに関しては、次回にご紹介していきましょう。

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文=たけしな竜美

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