時間に方向が存在しないことを証明する「時間のC理論」がヤバい! 全ての科学は間違いの可能性、時は未来から過去にも流れる!?
英・ケンブリッジ大学のTA(学部生の講義を受け持つ大学院生)であるマット・ファー氏が、「Aeon」(7月29日付)において、時間に方向を持たない「C理論」について説明している。
・「The ABC of time」(Aeon)
時間は過去から現在を通って未来へ一方向に流れているように感じられるが、向きのない時間は、そもそも時間と言えるのだろうか?
C理論のもととなっているのは、19世紀英国の哲学者ジョン・マクタガートの論文「時間の非実在性」で示された時間の3つのタイプ(A系列、B系列、C系列)の1つである。
・A系列※
マクタガートが真の時間系列だと考えていたのがA系列(A series)だ。A系列は、時間を過去・現在・未来によって区分することで、“変化”を表現できているとした。
・B系列
B系列は「~より前、~より後」という順序によって表現される時間系列である。オンライン哲学百科事典「心の哲学まとめWiki」によると、A系列とB系列の違いは以下のようなものだという。
例えば「第二次大戦は今や過去のことである」という表現はA系列であり、「第二次大戦は湾岸戦争より前のことである」という表現はB系列である。しかし「変化」の概念を伴っているA系列こそが時間の本質であり、B系列とはそこから派生した時間概念だということである(「心の哲学まとめWiki」)
こうした順序には決まりがあり、「湾岸戦争の後に第二次世界大戦が起こった」と言うことではできない。
マクタガートは、B系列は“変化”を表現できていないと考えた。それぞれの出来事はただ、「~より前、~より後」という関係でしか結ばれておらず、その関係は永久的に固定されているからだ。すると、あらゆる出来事はただ順序関係にしたがって生起するだけで、その間を繋ぐべき“変化”は見いだせない。そのため未来のあらゆる出来事の順序も決定されており、現在が未来へ影響を及ぼして未来の出来事を“変える”ことはできない。
ただし、出来事が起こる順序は維持されているため、時間の向きは決まっている。
・C系列
C系列はB系列から「出来事が起こる一定の向き」を取り除いたものだ。
B系列では、「第二次大戦は湾岸戦争より前のことである」という表現のみが可能であり、「湾岸戦争の後に第二次世界大戦が起こった」と言うことはできなかった。しかしC系列では順番の向きが無効になっているため、並び順さえ合っていれば「A、B、C」であっても「C、B、A」であっても構わないとする。
ファー氏が支持するのが、このC系列であり、これをベースにした時間論を「C理論」と呼んでいる。
※ファー氏の話とは別であるが、マクタガートの時間論の結論は、真なる時間系列であるA系列では矛盾が生じるため、時間は実在しないというものである。
マクタガートはC系列を“時間ではない”と断じたが、なぜファー氏は“まやかしの時間”であるC系列を支持するのか。それは、科学的な時間観と合致しているからだという。
「基本的な物理学理論は時間対称的だ。古典物理学、量子力学、相対性理論は時間反転不変性(時間の流れと逆転した世界でも元の世界と変わらないこと)を持つように、物理学においては、正の向きで起こったプロセスが負の向きでも起こると記述される。こうした記述においてプロセスは反転可能である」(ファー氏)
ただし、実際のところ物理学者は、過去から未来へと流れる時間の向きを好んで使っているという。
代表的なのは宇宙の記述についてだ。宇宙は137億年前から未来へ向かって膨張していると考えられているし、物質はブラックホールに吸い込まれ崩壊するとされているし、エントロピーは時間とともに増大し、減少することはないとされる。物理学者であっても、宇宙を過去から未来へ一方向に進むものだとするのが当たり前だと考えているのだ。
物理学理論は時間の向きを必要としない。しかし、人間は時間を一方向的に考える習慣に馴染み切ってしまっている。ファー氏によると、この捻じれた状況を打開するのにC理論は適しているという。どういうことだろうか?
まず、世界のあらゆる過程が、“本当は”反転していると考えてみよう。“本当は”明日は今日より前に来ているし、高速道路上の車は逆向きに走っている。そして、“本当は”私たちは“私たちの信念に反して”日々若返っている。このように、“本当は”世界は逆向きの過程を辿っていると聞かされた時、私たちはどのような反応をするだろうか? ファー氏は「だから何?」という反応が返ってくるだろうと言う。
たとえば、筋肉が衰え、髪の毛が白くなり、皺が増えるといった老化を示すあらゆる“誤った”証拠を前にして、「世界は逆向きの過程を辿っていますから、“本当は”あなたは若返っているのです(信じられないでしょうが)」と言われたところで、「だから何?」と言うしかないというわけだ。
以上の思考実験により、ファー氏は、「本当の時間の向き」を問うこと自体がナンセンスだと指摘している。
次に、時間が前に進んでいると我々が判断してしまう理由を探るために、ビリヤードプレーヤーがボールを打つ場面を考えてみよう。
・過去→未来
1、ビリヤードプレーヤーがボールAを突き、止まっているボールBにぶつける。
2、ボールAがボールBにぶつかり、運動エネルギーを伝え、衝突音が響く。
3、ボールBはコーナーポケットに落ち、動きが止まる。
・未来→過去
1、コーナーポケットが揺れ、ボールBがテーブルに飛び出し、ボールAに向かって速度を上げて進む。
2、ボールBがボールAに衝突すると同時に内側に向かって衝突音が響く。ボールAはボールBよりも速いスピードでキューに向かって進む。
3、ボールAはキューに衝突し、ビリヤードプレーヤーの腕が後ろに弾かれる。
ファー氏によると、過去→未来の場合のほうが正しいプロセスだと感じるのには、2つの事柄が関係しているという。
1つ目は、過去→未来の時はビリヤードプレーヤーがボールのショットをコントロールしているように感じられるが、未来→過去の場合はボールの運動の結果としてビリヤードプレーヤーの行動が起こっていると感じられる点だ。
2つ目は、未来→過去では説明不可能な偶然の連続が起こっている点だ。なぜだか、コーナーポケットが揺れ、偶然にもボールがテーブルに飛び出し、他のボールにぶつかっていく……。
端的に言って、未来→過去の現象は起こりそうもないが、過去→未来は起こってよい現象だと思われるのだ。
しかし、ファー氏は、過去→未来の現象をもっともらしく見せるこうした事柄は、時間の向きとは無関係だという。
「あなたにビリヤードプレーヤーのショットを過去→未来で見せた時も、未来→過去で見せた時も、私が期待するのは、あなたが因果関係について同一の判断を行うことです。つまり、ビリヤードプレーヤーがビリヤードボールをコーナーポケットに入れたということであり、逆の因果過程ではないのです」(ファー氏)
ファー氏によると、もとから時間の向きをはく奪されたC理論が明らかにした哲学的な洞察は、「因果関係の判断が、時間の向き定義し、構成する際に中心的な役割を担っている」ことだという。
であるから、C理論支持者は、「原因と結果の向きから考えるのに役立つ正しいパターンが存在する場合に限り、時間の向きは存在する」とするのだという。そして、そのようなパターンが存在しない世界では、時間の向きも存在しない。
「過去から未来へ流れる時間と未来から過去へ流れる時間を全く異なったものにする、反転不可能なプロセスは広く信じられており、そこには何か重要なものがあるかもしれないが、これを時間が持つ深遠な性質だと誤解してはいけない」(ファー氏)
20世紀ドイツの科学哲学者ハンス・ライヘンバッハも、「エントロピーが“本当に”増大していると言ったり、時間の向きは“本当に”正の向きであると言ったりすることに意味はない」と語っているように、エントロピーが宇宙の記述に役立つシンプルな理論だからといって、宇宙が“本当に”正の時間の向きに進んでいることにはならないのだ。
ファー氏は、C理論がもたらす結論を次のようにまとめている。
「C理論の答えは複雑で、心地良いほど逆説的だ。私たちの信念に反して、世界は“本当は”未来から過去へ進んでいると心配するのはナンセンスだが、このことはまさに間違った方向を指し示す“時間の向き”というものが初めから存在しないことに起因する」(ファー氏)
この結論になかなか納得できない読書もいるかもしれないが、実は量子レベルでは時間の向きはC系列的に準じていると考えられる研究結果もあるのだ。トカナでもお伝えしたように、モスクワ物理工科大学を中心とする国際研究チームは、量子コンピュータを使って時間を巻き戻すことに成功している。量子レベルではエントロピー増大則は絶対ではないのだ。
理論的にも実証的にも時間の向きは一方向に決まっていない。では、時間とはそもそも一体何なのか? 知れば知るほど謎は深まるばかりだ。
参考:「Aeon」、ほか
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