表現の不自由展「中止を回避できた方法」を東大教授が公開! ナチスの展示手口にならって…「もう一度、このやり方で開催しては?」

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マルセル・デュシャン『泉』「Wikipedia」より引用

 敵の牙を逆用すること、これはもともと芸術が得意とする基本戦略です。どの時代にもヘソ曲がりな芸術家はいて、伝統的な作法に逆らい、引っ掻き回し、覆そうとあれこれトンデモな試みを行なってきました。芸術という文化そのものを壊しにかかるネオダダやフルクサスのような運動もありました。しかし、どんな罠が仕掛けられようと、芸術制度はしたたかだったのです。反逆的動向のうち、特に危険なものを、アカデミックな高級芸術として丁重に遇し、ことごとく囲い込んでしまったんですね

 既製の工業製品がアートだとか、一つも音を鳴らさない音楽だとか、マルセル・デュシャンやジョン・ケージがどんな鬼手を指そうが、〈芸術〉は難なく「はいそれ、立派な芸術ね」と教科書にのっけてしまう。最近では、本来アウトロー中のアウトローだったはずのバンクシーですら、まっとうな権威へと祭り上げられつつありますし。

 いやもちろん、芸術界内部のテロリストを飼いならすのと、芸術界の外から来る脅迫者を手なずけるのとは、全然別のことでしょう。それでも、事前に抗議騒動が予想されていた経緯からして、「抗議の受け皿を組み込む」という芸術的常套手段、検討する余地はあったのではないでしょうか。

「最後通牒ゲーム」という心理学実験では、「不満をぶちまける」という行為をルールで正式に認めると、プレイヤーは協調しやすくなることがわかっています。抗議者を〈脱ならず者化〉し、展示全体をダイナミックな参加型アートに仕立てる、一石二鳥の「抗議実態調査スタイル」。それこそが、「表現の不自由展・その後」のあるべき姿でした。「でした」って偉そうに、後知恵ですが……。

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画像は「getty images」より引用

 いや、今からでも遅くないのでは? 芸術監督の津田大介が記者会見で述べたように、この中止騒動そのものが「表現の不自由」の実態について多くを教えてくれています。とすれば、その教えを改めてアート化できないことはないでしょう。

 ナチスや大日本帝国は権力が上から表現を検閲し、日本国は民衆が下から表現の自由を放棄した。そんな単純な反転に甘んじないよう、表現の多様性を――退廃も下品も猥雑も、メタもベタもオタもヨタも――ひた守る工夫を続けたいものです。

※ 2人の被験者ABのうちAは金を渡され、2人の取り分を自由に決める。Bは、割り当てが気に入らなければ、2人の取り分をゼロに再決定できる。Aに対し配分へのコメントを述べる機会をBに与えると、黙ってプレイさせる場合に比べ、Bは少額の割り当てを受け入れる傾向が高まる。

文=三浦俊彦

1959年生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学文学部教授。専門は、美学・分析哲学。和洋女子大学名誉教授。著書に『バートランド・ラッセル 反核の論理学者:私は如何にして水爆を愛するのをやめたか』 (学芸みらい社、2019年)、『エンドレスエイトの驚愕: ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社、2018年)、『改訂版 可能世界の哲学――「存在」と「自己」を考える』(二見文庫、2017年)など。
Twitter:@tmiura_bot

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