「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」本当にあった愛人の怖い話! 父の美しい愛人、狂いゆく母…怪談『水の女』!
知美さんの父は日本の一流企業で高いポジションに就いていたようである。ソウルの支社でも、いい給料を貰っていたと思われる。
彼が知美さんたち3人をソウルのマンションに呼び寄せてから2、3カ月が経ったある日、自宅に無言電話がかかってきた。
知美さんが受話器を取ると、電話の向こうの相手は、ただ沈黙していた。そこで困惑しながら「ずっと黙ってる」と母に受話器を渡したところ、間髪入れず、
「別れるつもりはありません! 別れるつもりは、ありませんから!」
と、いきなり母が厳しい口調で受話器に向かって繰り返した。
その後すぐに電話は切られたようだった。
母には、無言電話をかけてきたのが誰か、あらかじめわかっていたのだと思った。
「今の電話、誰からなの?」
知美さんがそう訊ねると、母は氷のような声で答えた。
「愛人」と。
知美さんは最初、《愛人》という名前か職業の人がいるのかと思っていた。彼女は、恋愛や性については10歳にしても無知な方だったのだ。
しかし、無言電話はそれから毎日のようにかかってくるようになり、その度に母が情緒不安定に陥って、子どもの前では口にすべきでない言葉を口走って《愛人》を罵りはじめたので、徐々にその意味するところを察するようになった。
――父には、母以外に恋人がいるのだ。
そのうち、母は電話が鳴るたびに「ちょうちょ、ちょうちょ」と歌い出したかと思うと、「一緒に死のう!」と叫んで知美さんの首を絞めるといった奇行を示すようになった。
そうかと思えば、急に各種の習い事を始めた。テニススクール、手毬作り、刺繍、料理教室……。
父はもともと滅多に帰宅しない。そのうえ母までも留守がちになり、マンションの室内が急速に荒んできた。
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