「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」本当にあった愛人の怖い話! 父の美しい愛人、狂いゆく母…怪談『水の女』!
ソウルの日本人学校は、日本国内の学校よりやや遅く、7月中旬に夏休みを迎える。
ちょうど夏休みに入ったところだった。
両親は不在で、妹もどこかへ遊びに行っていた、昼下がりのこと。
突然、玄関の鍵を開けて《愛人》が現れて、知美さんに話しかけてきた。
「一緒に遊園地へ行かない? 一緒に行ってくれたら、パパと別れてあげる」
遊園地に行けば、父と《愛人》が別れる……。知美さんは迷った。
父とこの人が別れたら、母はいきなり「ちょうちょ」と歌い出したり、首を絞めたりしなくなるに違いない。バスルームに籠る必要もなくなる。
しかし《愛人》と2人で出掛けたことを母が知ったら、どうなるだろう? 半狂乱になって怒るのではないか。そんな気がした。
躊躇していると、《愛人》は追い打ちをかけるように、知美さんに訴えた。
「ママを幸せにしたいでしょう?」
訛りのある日本語だった。「愛人」は、この国の人なのだろう。しかし、なんとまあ、綺麗で、しかも優しそうな女の人なのか……。
この人がママならよかったのに、と、ふと、知美さんは思いついた。
そうしたら、もう、一緒に遊園地に行ってみたくてたまらなくなってしまった。
「ママが帰ってくるまでに、家に帰らせてくれるなら、いいよ」
知美さんがそう答えると、《愛人》は花が咲くように顔をほころばせた。
《愛人》は自分の車に乗ってきていて、運転が上手だった。
知美さんは助手席に座って、窓の外をずっと見ていた。
やがて車は細い山道に入っていった。《愛人》は「こっちに遊園地がある」と説明した。知美さんは単純に納得した――車に乗ってから眠くてたまらなくなり、思考力が失われていたのかもしれなかった。
気がつくと、車内にひとりで取り残されていた。
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