「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」本当にあった愛人の怖い話! 父の美しい愛人、狂いゆく母…怪談『水の女』!

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画像は「Getty Images」より引用

 それからというもの、知美さんは家の中で度々《愛人》を見かけるようになった。玄関に立っていることが多かった。しかし父の寝室やキッチンにいることも、あった。

 母は、相変わらず《愛人》を無視して、まるでそこに存在しないかのようにふるまっていたから、知美さんと妹もそれに倣った。《愛人》の方から話しかけてくることはなかった。

 8月も下旬に入り、いよいよ夏休みが終わろうとしていた。その夜、知美さんはヒステリックな女の喚き声で目を覚まされた。

 いつもの夫婦喧嘩だろうと初めは思った。

 母が父に怒鳴り散らしているに違いない、と。

 だが、しかし、いったん開いた目を閉じかけて、ふいに思い出したのだった――昨夜に限って、滅多にないことなのだが、母が知美さんと妹と一緒に寝たいと言ったのだ。だから3人で母のクイーンサイズのベッドで眠ったはず。

 寝たまま横を見ると、はたしてそこに、母と妹が抱き合って眠っていた。

 女の声は確かに聞こえてくるのだが……。

 耳を澄ますと、その声は玄関の方から次第に近づいてくるようだった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!」

 声はだんだんと恐ろしい呻き声に変化して、とうとうこの部屋のドアの真ん前まで来た。同時に、何かが床を擦る乾いた音や、カリカリと引っ掻く音が始まった。

 ――あれは、長い髪の毛が床を擦る音。

 ――カリカリいうのは、爪を立ててドアの隙間を探る音。

 《愛人》の姿が頭に浮かんだ。すると反射的に、部屋に入って来させないようにしなければ、と決意した。

 急いでベッドから下りて、ドアノブを両手で掴んで押さえた。

 危ない所だった。ちょうどそのタイミングで、ドアノブが外から回されだしたのだ。

 ガチャ! ガチャ! ガチャ!

 《愛人》の力は強かったが、知美さんは必死に抵抗した。

 どれほど時間が経ったかわからないが、やがてドアノブが動かなくなり、戸板の向こうから《愛人》の気配が消えた。

 知美さんは全身を汗で濡らし、肩で息をしていた。呼吸を整えて、恐る恐るドアを開き、誰もいないことを確かめて一歩、廊下に踏み出すと、

 ビシャッ

 と、小さな水音が立って、足の裏が濡れた。

 ドアの前に円い水溜まりが出来ていた。足もとからじわじわと、嗅いだ覚えがある生ぐさい臭いが立ちのぼってきた。

 車ごと水の中に沈められそうになった、あのときに嗅いだ臭いだった。

 しかもそこに《愛人》の香水の芳香が入り混じっていたので、ますます思い出さないわけにはいかなくなった。

 知美さんは《愛人》が自分を連れに来たのだと、そんな気がしてならなかった。

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