「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」本当にあった愛人の怖い話! 父の美しい愛人、狂いゆく母…怪談『水の女』!

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画像は「Getty Images」より引用

 知美さんは中学校進学と時期を合わせて、母と妹と共に帰国した。その後、遅れて父も日本に帰ってきたが、降格人事だったことが後に判明した。

 父は韓国に駐在していた頃からアルコール中毒で、仕事に支障を来たしはじめていたのである。失態を咎められ、懲罰的に異動と減給が行われたのだった。

 結局、知美さんが16歳のときに、父は莫大な借金を残して一時失踪し、母も妹を連れてどこかへ雲隠れしてしまい、ひとり取り残された知美さんは言い知れぬ苦労を背負わされた。

 後に両親とも現れたが、その頃には彼女の少女時代は終わっていた。歳に似合わぬ諦念と達観した思考を備えた、ひとりの大人の女がいるばかりだった。

「これまでに、あの当時ソウル近郊の湖で若い女性が水死した事件がなかったか、調べたことが何度かあるんですよ。でも、私の力では、これという情報は見つけられませんでした。

 また、あれは湖だったと思うのですが、どの湖だったかもよくわからないし……。

 もしかすると河だったかもしれません。果てしなく広いと思ったのはパニックになっていたからで、実際はさほど大きくない池だった可能性もあります。

 でも、とにかく、桟橋の上で体を拭いてくれたときの彼女は、本当に私のことを心配して、心の底から気遣ってくれていたように思うんです。優しくしてくれる《愛人》さんに、私は理想の母親像を求めていたのかもしれません」

 こう語った彼女に、私は思い切って、「水辺に知美さんを連れていった行為は、殺人未遂か心中未遂のように思えます」と意見を述べた。

 知美さんはしばらく押し黙った。私は不用意なことを言って傷つけてしまったのだと思い、謝ろうとした。が、その前に彼女が口を開いた。

……父は他界するまで、お前が彼女を傷つけたのだ、と、私を責めていました。彼女は父に、私を養子にしたいと言っていたのだそうです。父は母と離婚して、彼女と一緒に暮らすつもりだったけれど、母は頑として別れてくれず、子どもはどうするのかと父に問うばかりだった、と……。

 父は、私を疎ましく思っていましたから《愛人》の希望に沿うのも気が進まず、かといって現状を維持できないこともわかっていて、面倒になったと言っていました」

 ――妻だけでなく《愛人》のことも面倒になったという意味だ。

「もしかしたら、父は、私と彼女を無理心中に見せかけて殺すために、彼女の車に何か細工をしたのではないかと疑っていたこともあります。でも父に訊くことはできませんでした。もしも父に……実の親に、死を望まれていたとわかったら……」

 それは辛すぎる。

「私は、生きてきて、よかったのでしょうか?」

「もちろんですよ! よかったに決まってるじゃないですか!」

「……そうですよね。今は結婚して子どもを育てているんです。しっかりしなきゃ、いけませんよね。両親に対する要らないわだかまりも、なるべく捨てようと近頃では思うようになって、先日、父のお墓にお線香をあげてきたんですよ。

 そのとき、ふと思い出したことが。

 韓国に行くまでは、母も《愛人》さんと同じ香水を使っていたんです。《愛人》さんが現れてから、母は香水をつけるのをやめてしまいましたが……。

 そんなことを考えていると、だんだん記憶が混乱してきて、《愛人》さんが実在したのかどうか、自分の中であやふやになってくるんです」

「おとうさんの《愛人》は、車が水に落ちたときに死んだのだと思いますか? 本当は、知美さんは桟橋から、どうにかして、ひとりで家に帰ったのではありませんか? それとも、桟橋からあなたを家に連れ帰ったのは、実はおかあさんだった。そんな可能性は、ありませんか?」

 彼女は「わかりません」と乾いた声で私に答え、私は、水底に喪われた魂を思って泣いた。彼女の子ども時代を抱いたまま、女は今もどこかで水に眠っている。

文=川奈まり子

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■川奈まり子
東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。

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