幽霊が出没する路線の駅員に聞いた“本当にあった怖すぎる話”! 川奈まり子の実話怪談~終着駅の女~』
岡田さんが入社した11年前、この駅にはAさんという面倒見の良い先輩がいた。Bさん、Cさんをはじめ、先輩駅員は他にも何人もいるが、Aさんは別格で、当時、彼に強烈なインパクトを与えた人なのだという。
そして、その理由は、Aさんの人柄ではなく、岡田さんが駅員になって間もない頃に起きた、Aさんにまつわる、あるエピソードにあるということだ。
事は、岡田さんがようやく仕事に慣れてきた入社1年目から始まる。
ある日、夜10時半過ぎに、岡田さんがバックヤードの廊下を歩いていたところ、先に引き揚げたAさんが駅員用のバスルームから出てくるのが目に入った。
「Aさん」と呼び止め、「お疲れさまです」と挨拶した。
今日は共に早番だった。Aさんは、仮眠を取る前にシャワーを浴びることを好んだ。ことにその日は蒸し暑かったから、岡田さんはてっきりAさんはもうシャワーを浴びたのだろうと思った。
が、よく見ると、髪が脂じみていた。近づいてみたら、なんとなく汗も臭う。
それに、やけに顔色が悪いし、不自然に視線を床にさまよわせている。
おまけに、岡田さんの方を振り向くと、頬を引き攣らせて、
「シャワーは、やめておいた方がいいよ」
と、告げるのである。
何があったんだろうと不安に思ったが、Aさんがそう言うなら思い当たる理由はひとつしかなかった。
「故障してましたか?」と岡田さんは訊ねた。
しかしAさんは「いや」と否定した。
「たぶん、故障はしていないと思うんだが……。明日の朝、わけを話すよ」
「え? シャワー、使えるんですか?」
「うん。僕は、もう浴びないけどね」
わからないな、と、内心首を傾げながら、岡田さんはその後、バスルームでシャワーを浴びて、仮眠室に行った。Aさんに話しかけたかったけれど、Aさんはすでに頭から蒲団を被って寝ていたので、声を掛けなかった。
翌朝、さっそく昨夜のことを訊ねた。
Aさんは初め、なかなか口を割らなかった。「あれから考え直した。世の中には知らない方がいいことっていうものが、あるんだよ」などと抵抗する。
岡田さんは粘った。
「教えてくださいよぅ。気になって仕事が手につきませんよ!」
「……しょうがないなぁ。それじゃあ話してもいいけど、その前に訊いてもいい? 昨日、バスルームで何か変わったものを見なかったかい?」
岡田さんは首を横に振った。「別に何も見ませんでした」
「そうか。……せっかく話すんだから、信じてくれよ? 昨日の夜、シャワーを浴びようと思ってバスルームに行ったときのことなんだが……」
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