幽霊が出没する路線の駅員に聞いた“本当にあった怖すぎる話”! 川奈まり子の実話怪談~終着駅の女~』

 それからしばらくして、駅員の間に、件のバスルームの窓に女性のシルエットが映るという噂が立った。

 その窓の外は垂直に切り立った壁しかなく、人間が立つことは不可能なのだが、目撃者たちは口々に「女が外に立っていた」と証言した。

 それは幽霊か、さもなければ何かの見間違い、もしくは気のせいに違いなかった。そうなると、幽霊派は、にわかに活気づいて、「この路線は幽霊多発路線なのだ」と、沿線で噂されたことがある怪奇現象を、駅員にとっては身近な人身事故や飛び込み自殺と絡めて、まことしやかに話すようになった。

 無論、見間違いと気のせいで全部済ませる者も少なくなかった。

 Aさんと同期のBさんはその急先鋒で、日頃から幽霊の存在などは頭から否定していた。

 軽蔑されるのがオチなので、Aさんは、Bさんには、足跡のことも含め、怪談的な話題を振らないように気をつけていたようだ。

 ところが――ある晩のことだ。

 その日、遅番だったAさんが午前1時半までの前半勤務を終了して仮眠室に向かい、扉を開くと、廊下の明かりが眠っているBさんの顔を照らし出した。

 ここの仮眠室には手前から奥に向けて2段ベッドが2つ並べられていて、Bさんは手前側のベッドの下段で寝ていたのだ。

 Aさんは、Bさんが早番だったのを知っていたから、そこに寝ていること自体は想定内で、別段、何とも思わなかった。

 ただ、Bさんがベッドを囲う目隠しのカーテンを開けっぱなしにして熟睡していることに、ちょっと呆れただけだ。

 もっとも、Bさんの性格には普段から、よく言えばおおらか、悪く言ったら無神経で大雑把なところが見受けられたから、これは少しも意外ではなかった。

 Aさんは「Bさんが他人の視線を気にしないなら、こっちも気を遣う必要はないな」と考えた。また、疲れていて、一刻も早く横になりたかったせいもあって、Bさんに倣って自分もベッドのカーテンを開けたまま、奥のベッドの下段に寝た。

 ……どれほど眠っていたかわからないが、突然、Aさんは目が覚めた。

 寝息が耳に入り、半ば無意識に隣のベッドの方を向く……と、Bさんの枕もとに、ほっそりした若い女性が佇んでいた。

 ベッドの向こう側に立ち、Bさんの寝顔を無表情で見下ろしているのだが、ただの侵入者ではない。なぜなら、その体を透かして、後ろにあるものがみんな見えているのだから。

 Aさんは悲鳴を呑み込み、震える手で、自分のベッドのカーテンを静かに閉めた。それから蒲団を頭から被って、朝の訪れをひたすら待った。

 翌朝、AさんはBさんとホームで顔を合わせたが、Bさんの性格を考えるとどうしても言いづらく、結局、女の幽霊を見たことは話せなかった。

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