幽霊が出没する路線の駅員に聞いた“本当にあった怖すぎる話”! 川奈まり子の実話怪談~終着駅の女~』
Aさんは愛妻家として知られていたという。まだ子どもがない30代の夫婦なら、どこもそんなものかもしれないが、休日は必ず一緒に過ごし、勤務がある日も小まめに連絡を欠かさず、お互いの状況を把握し合っていたとのことだ。もちろん、妻に黙って何処かへ行ってしまうということもしない。
責任感が強く、無断欠勤など、一生しそうにないタイプでもあった。だが、そんな彼が、何の前触れもなく、ある日突然、行方をくらました。
妻は無論のこと、会社でも彼を探した。警察にも当然、届け出た。しかし当初は手がかりがまったく掴めなかった。
ひと月ほど経った後、ようやっとAさんは発見された。
……変わり果てた姿で。
死因は不明。わかっているのは、彼が沖縄に行ったこと。レンタカーを借りて、ひとりで旅をしていたらしいということ。
レンタカーの運転席で事切れて、死後何日も経って腐乱屍体で見つかったこと。その他については一切が謎のままになった。
警察は、事件性を認めず、Aさんは自殺したのだと結論づけた。
「口さがない同僚は、浮気がバレて自殺したんだとか、現地でトラブルに巻き込まれたんだとか、勝手なことを言っていましたが、僕は、駅員は普通の仕事よりも人の死に頻繁に遭遇するので、気をつけようと思いました」
岡田さんによると、Aさんは度々、勤務中に怪異に遭遇していたとのこと。
その存在を察知しても〝視えている〟ことを幽霊に悟られない方がいいというのは、よく言われることだ。
〝視える〟人についてきてしまうから、気づかない振りでやり過ごした方が安全だというのである。
ちなみに、Bさんは健在なのだそうだ。抱きつかれていたにも関わらず。
「では、あの幽霊はAさんに憑いて沖縄に行ったきり……?」
私がこう訊ねると、岡田さんは「いいえ」と答えた。声に無念さを滲ませているので、何かあったのだろうと思い、黙って続きを促すと、彼は「エピソードとしては短いのですが」と前置きして、こんな話をした。
「恐ろしいことには、Aさんが亡くなった後に、別の先輩がこんなことを言っていたんですよ。終電後、駅舎の戸締りを完了して事務所を出る際、毎回必ず、背後に女性が立った気配がする……と。後ろにピッタリと貼りつくように立たれるんだそうです。そして、振り向いたわけではないけれど、なぜかそれは女だとわかるというのです。
だから、Aさんが見てしまい……そしてもしかすると、彼を沖縄まで追い詰めて取り殺した女の幽霊は、いつの間にか戻ってきて、今もまだあの駅に棲んでいるんじゃないかと思うんですよ」
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