元ホストが語った「本当に怖い三角関係の怪談」が恐ろしい! 幸せな女を襲う生霊の闇…川奈まり子実話怪談『いきすだま ~去る女~』
今回お話を伺った、47歳の会社役員、貴司さんは、ごく若い頃、関西のホストクラブで働いていた。今や良き家庭人、常識的な社会人として日々を過ごしているけれど、その昔、売れっ子ホストだった頃は、プライベートに於いても花畑の蝶のごとく女性から女性へと飛びまわっていたようだ――というのは彼から事の顛末を聴いた私の感想であって、貴司さん自身は決して「昔はモテた」と自慢しなかったことは彼の名誉のために記しておきたい。
20年以上前のことで、現在の貴司さんからは想像もつかないけれど、18歳から始めたホスト稼業はよほど水が合っていたと見えて、2年もすると鰻登りに人気が出て、21のときには大口のパトロネスがついた。
このパトロネス、アケミは、当時、夜の神戸にこの店ありと謳われるほどの一流クラブのオーナーママであり、彼と同棲するために新しくマンションを買うほど経済力があった。
彼女は貴司さんの母親であっても不思議はないほどの年齢だったが、独身で、同居する家族はおらず、知り合ってみれば、華やかなイメージとは裏腹に孤独な人でもあった。
そして、予想外に賢い女性なのだった。
今でも高級クラブのママには、美人なだけではなくて、博識で頭の回転がすこぶる速く、乗馬やゴルフなど顧客が好みそうな趣味全般に優れており、着物の着付けも出来れば外国語にも堪能で東西のマナーも完璧にマスターしているという、隠れた超人が珍しくない。
アケミも、そういう万能の女性だったのだ。
貴司さんの社会人としての基礎は、彼女によって築かれたと言っても過言ではないかもしれない。貴司さんは、アケミに啓蒙されて知恵を蓄え、急速に視野を広げた。
皮肉なことに、それがアケミにとっては、仇となったようである。
アケミに触発されて賢くなった彼は、高校の勉強をし直して、大学か専門学校に進学したいと考えはじめたのだ。
そして、いつか努力が実った暁には、自分の隣にいるのはアケミではないような気がしてきたのだった。
アケミの引き際は、それはそれは潔かった。
愁嘆場は、誇り高い彼女の望むところではなかったのだろう。
アケミは、彼の気持ちが離れ切る前に、自ら別れを告げた。しかも、マンションの名義を書き換えることまではしなかったが、無期限に貴司さんが住むことを許して、自分が買った愛の巣から立ち去った。
貴司さんと口喧嘩をすることもなく、去り際も笑顔で、涙ひとつ見せなかったという。
それが、貴司さんが23歳のときのことだそうだから、アケミと彼との蜜月は2年余りで終わってしまったわけである。
当初、貴司さんは、戸惑っていた。
恋の気持ちが薄れても、情はかえって強まっていたし、すでに日常生活の隅々にまでアケミの陰が入り込んでいて、彼女の不在を前にして途方に暮れた気持ちになったのだ。
その一方で、久しぶりに若者らしい、爽快な自由を味わってもいた。
アケミの視線から外れてみたら、一日中だらけることも、マンションに仲間を呼んで宴会を開くことも、好きにして構わない。
アケミが嫌いそうな音楽のCDを掛けたり、悪趣味な服を着るのも勝手だ。
住んでいる部屋の本当の主はアケミだが、独りで暮らすうちに、そんなことは日に一回も頭に上らなくなってきた。
アケミとの別離から半年足らずで、彼にはナナという新しい恋人が出来た。
年齢は貴司さんよりも1、2歳下で、職業はキャバクラ嬢。アケミにあった威厳や格のようなものは欠片も無い代わりに、朗らかで率直で、冗談が通じた。
性格や財布の中身を含め何についても軽やかなナナは、付き合いはじめるとすぐに、貴司さんが住むマンションに居つくようになってしまった。
そのとき、貴司さんは、これはアケミが買ったマンションだということを、ナナに打ち明けそびれた。
新しい恋人と同棲しはじめると同時に、アケミに対する後ろめたさが湧いてきたのだが、事情をナナに説明するのは気が重いことだった。
もっとも、秘密にしておけたのは最初の数日だけで、すぐに白状するはめになったのだが……。
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2024.10.02 20:00心霊元ホストが語った「本当に怖い三角関係の怪談」が恐ろしい! 幸せな女を襲う生霊の闇…川奈まり子実話怪談『いきすだま ~去る女~』のページです。怪談、川奈まり子、情ノ奇譚、生き霊などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで