元ホストが語った「本当に怖い三角関係の怪談」が恐ろしい! 幸せな女を襲う生霊の闇…川奈まり子実話怪談『いきすだま ~去る女~』

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画像は「Getty Images」より引用


 仕事が終わると、着替える間も惜しんで、とにかく大急ぎでマンションに帰った。着いたのは午前6時半で、すでに空は明るかったが、家じゅうの電気が点けられていた。聞けば、いったん起きてから今まで明かりを全部点けていたのだという。

「怖うて」とナナが言い訳をした。

「セイラが電気ぃ点けてくれたら、その瞬間に、オバケが消えてん……」

 事の経緯は、だいたいセイラに聞いた通りだった。

――午前3時頃、ナナは金縛りにあって意識が覚醒した。手足は動かせなかったが、目を開けることが出来た。瞼を上げると、視界の大半を占めるほど間近に、女の顔が覆いかぶさってきていた。

「最初は般若のお面か思た。やけど、よう見たら、泣き笑いみたいな怖い表情で、うちを睨みつけてる中年の女の顔やったで。その女が、何にも言わんとニュッと両手ぇ伸ばしてきて、うちん首をギューッと絞めて、手足は動かへんし、息も出来へんくなって、唸ったりのけぞったりして苦しんどったら、セイラが気ぃついて……」

「そうそう。ナナが呻いてるのが聞こえて目が覚めて、どないしたんって声を掛けながら、天井の電気ぃ点けたんよ。真っ暗にして寝とったさかい」

「明るなった途端、女が消えて呼吸できるようになってんけど、ほら、首のとこ見て! まだ赤なってんやろ?」

 見れば、大きな赤紫色の痣がぐるりとナナの首に巻きついていた。

「ね? うち、ほんまに首を絞められた! それとね、匂いを嗅いでん!」

「匂い?」

「香水の! ウッディノート? 木みたいな、なんや変わった感じの……」

 ――アケミは若い頃からずっと同じ、ゲランのオードトワレを愛用していると言っていた。

 まだ鼻が憶えている。深い緑を重ねた、森の匂い。うなじに顔を押しつけて深く息を吸い込むと、下生えに咲いた草花や森の奥で生っている名も知れぬ果実の香りも嗅ぎ取れた。《夜間飛行》という名だと教えてもらって、どこまでも続く森を眼下に見下ろしながら夜の空を飛んでいくことを想像したものだ。

「怖いさかい、今夜はセイラのうちに泊めてもらうことにしたいんやけど、あかん?」

 怯え切った表情のナナを、引き留めることは出来なかった。

 2人は貴司さんが寝ている間に、マンションから出ていった。

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