元ホストが語った「本当に怖い三角関係の怪談」が恐ろしい! 幸せな女を襲う生霊の闇…川奈まり子実話怪談『いきすだま ~去る女~』
1週間もすると、ナナの中で恐怖のほとぼりが冷めたようだった。生来、楽天的で陽気な性格だ。寂しがり屋でもある。
「そろそろ、もういけるよね? あれから、出てへんのやん?」
「出ぇへんね」
家で夜を明かしたわけではないので、少々、不正直だった。が、彼もナナに会いたくてたまらなくなっていたのだ。
話の流れで、ホストクラブの閉店間際にナナがやってくることになった。そうしたら、朝、一緒にマンションに帰ればいい。それなら生霊に遭わずに済む。
貴司さんは、さほど心配していなかった。ナナもそうだろう。
2人は腕を組んで帰り、マンションの玄関に入った。
夏の朝だ。窓のカーテンを透かして陽が差し込んでおり、室内は明るんでいた。
外に比べると、不思議なほど涼しい。冷房は切ってある。
ナナが先に立って部屋の奥へ進んでいこうとする。
――ふと、厭な予感がした。
「ナナ」
呼びとめて振り向かせた。
その直後に、ナナが、それこそ般若のように目を剥いて顔を引き歪めたかと思うと、凄まじい悲鳴をあげた。
そして、貴司さんを突き飛ばして玄関から飛び出し、外へ走り去った。
背後で静かに、ドアが閉まった。
森の芳香が、包むように肩を抱き、鼻先まで触手を伸ばしてくる。
懐かしい香りだ。ひと言では説明のつかない涙が溢れてきた。
貴司さんは、洟を啜りながら、アケミの携帯電話に電話した。
出ますように、まさか死んでいませんように、と、祈りながら。
朝っぱらから出たのは亡霊になったからなんてことだったら、悲しくてやりきれないと思った。
むしろ生霊の方が、自分にとっては救いがある。
4コール目でアケミが出たときは、気が遠くなるほど安堵した。
「アケミ? 久しぶり。あのさぁ、なんや、わからんけど、今の彼女が寝てるときに、アケミが出たんやて」
緊張するあまり、冗談めかした口調になってしまったが、どうしようもなく語尾が震えた。
「霊能者に霊視してもろうたら、スリムな美人の生霊やて言うとぉねんて。《夜間飛行》の匂いが今もするんやけど、もしかしたら、さっきからこっちに来てるん? 僕には全然見えへんけど、彼女はキャアって叫んで逃げてったよ。ほんまにアケミなん? 答えてや」
嗚咽が返ってきた。
アケミが泣いている。それが答えだと貴司さんは思った。
「アケミはこの世界じゃ有名人やさかい、噂は耳にしとったんや。彼氏が出来たって聞いてる。どうなん? ほんまはデマなん? 僕ん方は彼女が出来たけど、もうあかんかもわからへん。まあ、しゃあない。これで踏ん切りついた。僕は明日にも、この部屋を出ることにする」
むせび泣く声が、ひときわ高まった。
最後に一言、「ごめん」と叫んで、アケミはプツッと通話を切った。
すると、独りぼっちになった貴司さんの周囲から、あれほど濃かった森の芳香がたちまち薄れて、消えた。
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2024.10.02 20:00心霊元ホストが語った「本当に怖い三角関係の怪談」が恐ろしい! 幸せな女を襲う生霊の闇…川奈まり子実話怪談『いきすだま ~去る女~』のページです。怪談、川奈まり子、情ノ奇譚、生き霊などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで