生活の基盤なくしてやりたいことはできない! 伝説のバンド「the原爆オナニーズ」の初ドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』大石規湖監督インタビュー後編

the原爆オナニーズ ©2020 SPACE SHOWER FILMS


 1982年に名古屋で結成されて以来、38年間にわたり同地を拠点にパンクロックを演奏し続けているthe原爆オナニーズ。オリジナルメンバーはTHE STAR CLUBに在籍していたEDDIE(bass)と地元のパンク博士・TAYLOW(vocal)で、のちに遠藤ミチロウ率いるザ・スターリンやBLANKEY JET CITYに加わる中村達也や、Hi-STANDARDの横山健が在籍したことでも知られている。現メンバーはTAYLOW、EDDIE、JOHNNY(drums)、SHINOBU(guitar)の4人で、みな定職を持ち、うち2人が還暦を迎えた今なおシーンの最前線で活動している。

 そんな現存する日本最古のパンクバンド・the原爆オナニーズの、キャリア初となるドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』が10月24日より公開中だ。監督は、正体不明の地下音楽レーベル〈Less Than TV〉の中心人物・谷ぐち順とその家族に密着したドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』(2017年)で映画監督デビューを果たした大石規湖。“生活と音楽”をテーマに映像を撮り続ける大石は、なぜthe原爆オナニーズを題材に選んだのか。そして、彼らに何を見たのか。本人に話を聞いた。

 

■「生活の基盤なくしてバンドはできない」

−−映画の中でEDDIEさんが、かつてTAYLOWさんがパンクバンドのミックステープを作って配って、それが名古屋パンクの礎になっているというお話をしていました。大石さんから見て、名古屋のパンクの特殊性にthe原爆オナニーズが寄与していると感じる部分はありますか?

大石規湖(以下、大石) 名古屋のパンクの特殊性というか、the原爆オナニーズの特殊性として、まずTAYLOWさんがパンク博士であり、オタクじゃないですか。たぶん80年代初頭って、主にいわゆる不良の人たちがパンクとかハードコアをやっていたと思うんですけど、そうではない人がパンクをやるのって、当時としては珍しかったのかなって。そういう「誰でもパンクをやっていいんだよ」というのをわかりやすく体現したのがTAYLOWさんだったと思うんです。

the原爆オナニーズ結成当時のTAYLOW ©2020 SPACE SHOWER FILMS

−−TAYLOWさんはTHE STAR CLUB時代のEDDIEさんのベース奏法を見て「ダウンピッキングで弾いてるからパンクとして正解」みたいなこともおっしゃっていましたね。

大石 「そこを見るんだ!?」って思いました。私はそんな視点でベースを弾いてる人を見たことないですもん。

−−あと、すべての音楽ジャンルに言えることでもありますが、特にパンクやハードコアはファッションと結びつきやすいですよね。

EDDIE ©2020 SPACE SHOWER FILMS

大石 そう。でもTAYLOWさんはバンド結成当時から「パンクはファッションじゃない。精神だから」と言っていて。それこそSHINOBUさんが「本物のパンクロッカーはとっくに死んでる」と言っていますけど、ステレオタイプな「パンクロッカーは破滅的な生き方をしてそう」的なイメージと違って、TAYLOWさんみたいに精神的にパンクであれば、会社勤めしていようがパンクスであるみたいな。そういうスタンスを最初に提示したバンドの一つじゃないかなって。

−−TAYLOWさんは「生活の基盤なくしてバンドはできない」とはっきりおっしゃっていましたし。

大石 結局、バンドをやるためにはお金も時間も必要になるというのは当たり前のことで、だからといってそのために家庭を犠牲にするみたいな選択肢は彼らの中にはないんですよね。だから人としてすごく真っ当というか。そもそもバンドをやっている人ってアウトローみたいに思われがちかもしれないけど、実際はそうじゃない人のほうが多いじゃないですか。特にパンクやハードコアの人は礼儀正しいし、人のことを見下したりもしないし、誰にでも偏見なく接してくれる。少なくとも私の周りにはそういう人たちが多いし、家庭を持っている人はそれを大事にするための方法を考えながらバンドをやっているんですよね。

−−自分のスタイルを持っていますよね。『MOTHER FUCKER』の谷ぐち家もそうでしたけど。

(参考:映画『MOTHER FUCKER』大石規湖×谷ぐち順対談

大石 うんうん。ただ、それを真似しろというわけじゃなくて「あなたなりのスタイルを考えていけばいいよ」というスタイルだと思うし、実際、私もTAYLOWさんと接しているうちに自ずと「自分なりの方法で表現すればいいんだ」と思うようになりました。

−−『JUST ANOTHER』では、the原爆オナニーズのメンバーのプライベートなシーンはほぼないのに、めちゃくちゃ“生活”を撮っているのが大石さんなりの表現というか、大石さんならではだと思いました。

大石 嬉しいです。生活の基盤を大事にしている=生活の基盤を守りたいということでもあると思うので、そこにカメラを持って踏み入ることはせずに、でもその大事さがわかるような映像にしたいと思っていたので。私もちょうど撮影中に結婚したんですけど、パートナーの存在も含めて“安心できる場所”という意味でも生活の基盤があったほうが、自分のやりたいことができると実感したんですよね。

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