日本の医療崩壊を救うキーワードは「謎の床屋外科」!? 奇妙な歴史からみる医師不足の原因

■中間職の不在

画像は「Getty Images」より引用

 現代でも床屋外科は消えたわけではなく、名称を変えて生き残っています。

 国際的には医療提供者というカテゴリーの中に入っている「フェルザー(Feldsher)」、「クリニカル・オフィサー(Clinical officer)」、「医師助手(Physician Assistant)」など、医師と看護師の中間の医療従事者が床屋外科に相当するものです。

 日本が医師不足で、慢性的に医師が長時間労働を強いられているのは医師と看護師の中間がいないからです。

 戦前は大卒の医師と専門学校卒の医師がいたので、専門学校卒が町医者として準医師みたいになっていましたが、戦後になって医師だけにしかできないことを増やしすぎたせいで医師の手が足らなくなったのです。専門学校卒最後の世代で医師免許を取得した有名人が漫画家の手塚治虫先生です。

 日本人の謎の大病院信仰の根源をたどると、昔は大学病院や総合病院にいる医師は大卒で、町医者は専門学校卒だったからです。

 例えば、現代は助産師だけで出産する人が激減して、産婦人科医に負担が集中しすぎているため、少子化で出産数が減っているのに超過勤務で瀕死です。人間の数に対して十分な医療を提供しようとしたら、難関医学部を卒業できる人間だけに仕事をさせたら人手不足になるのは当然です。

 また、戦後長らく、看護婦が注射をするのは違法でした。しかし、現場が回らないから違法とは知りつつも看護師が注射をしていた時代があったとか、現代人からは理解できないようなこともありました。さらに信じられないことに、昭和26年9月15日に禁止されてから、看護師による注射が完全に合法化したのは平成14年9月30日です。

 全国の医師と看護師が信じられないという顔をしそうですが、本当に法律上はそうなっていました。しかも、合法化したのは法改正ではなく「行政解釈の変更」によるものです。

 医師じゃないとできないという規制を増やしすぎたせいで、看護師ができることでも法制度上出来なくなってしまっており、医師と看護師の間で軋轢まで生んでいます。日本は看護師の能力の高さに比べて与えられている権限が異常に少ないため、能力とプライドと給料のバランスが取れなくて人間関係までもがおかしくなっているのです。

 床屋外科の存在が日本で奇異に見えるのは、日本に医療の中間職が存在しないからではないでしょうか?

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文=亜留間次郎

薬理凶室の怪人アルマジロ男。人間の皮を被った血統書付きアルマジロ。守備範囲は医学から工学、ノーマルからアブノーマルまで幅広く、アリエナイ理科ノ大事典など、くられ氏と共に薬理凶室関連の共著多数。単著に『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』(三才ブックス)がある。よくわからないケダモノなのでよくわからないネタで攻めていきます。

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