【未解決事件】なぜ犯人はマンホールに遺体を遺棄したのか?『多摩市貝取一丁目マンホール内失踪女性殺人』の謎

現在の事件現場(2019年)。画像は「Google Map」より


 事件のあらましを解説した前編はこちら。

 まず、この事件における最大の謎であり、同時に事件解明の鍵を握るともいえることの一つに「なぜ犯人はあのような場所に遺体を遺棄したのか?」という点が挙げられる。というのも、被害者の遺体が発見されたのは、自宅からわずから数百メートルしか離れていない場所に位置し、夜こそ人通りがほとんどないものの、スーパーの目の前ということもあって、昼間はそれなりに人目のあるような場所であったからだ。

 たとえ遺棄場所がマンホールの中という人目につきにくい場所であったとしても、そこに遺棄することは、事件発覚を恐れる犯人からすれば、かなり高いリスクを伴う行為であることは言うまでもない。ましてや、犯行に際して、特殊な工具を使ってかなり力を必要とする作業が必須ともなれば、何らかの事情がなくてはまず実行に移すことはないだろう。なお、遺体遺棄の際に伴うこの作業の特殊性から、当局は、工具を所有し、被害者とも交流があった男性を被疑者であると睨んだようであるが(※後に嫌疑が晴れ、結局は逮捕には至らなかったという)、仮にその人物のように、犯人が“マンホール事情”に精通していたのならば、ほかにいくらでも遺棄に向いたマンホールの存在を把握していたはずである。ならばなぜ、犯人は「このマンホール」に決めたのだろうか。

 筆者は長年に渡ってさまざまな事件を取材した経験上、殺人自体を「なんとなく」引き起こしてしまうケースはあっても、その後の死体遺棄を「なんとなく」行うことはほとんどないという見解を持っている。それは、死体遺棄という行為自体が、既に「事件発覚を防ぐ」または「遅らせる」という明確な動機によって行われることが大半であるからだ。そうした観点に基づいて考えれば、犯人がこのマンホールを遺棄場所に決めたのは、必ず「選んだ理由」が存在していたと見るべきなのである。さらに言えば、それが深慮遠謀に基づいたものであれ、些か短慮なものであるにせよ、少なくとも犯人目線では「この場所でないといけない理由」があったことを示唆しているといえる。

 それを踏まえたうえで、改めて目撃情報を確認してみると、事件発生当夜に、マンホール付近で作業員風の男が、ワゴン車を停めて何やらしている姿を目撃した人がいたという。この男こそが、被害者の遺体を遺棄した張本人であると見られているが、その様子から推察するに、「現役」であるか「元」であるからともかく、おそらく本職の作業員であった可能性が高いだろう。無論、被害者との関係は「殺人」を除けば不明だが、少なくともこのマンホールで作業をした経験があり、このマンホールへの遺棄が、当時の状況下において最適解であると判断したことだけは間違いない。となれば、被害者との関係から洗い出すのではなく、まずは「このマンホールでの作業経験者」から犯人を探すのがセオリーといえるのではないだろうか。

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