視覚障害者が共通して見る「怖い幽霊」の謎! 貞子的な容姿で… シャルル・ボネ症候群とは?
※ こちらの記事は2020年8月15日の記事を再掲しています。
視覚障害を持つ人にだけ現れる“幽霊”の研究が本格的に始まった。
英紙「The Independent」(8月10日付)によると、英国の推定100万人の視覚障害者は、日常的に“ゾンビ”や“幽霊”を目撃し、そのリアルな存在感に生活を脅かされているという。その1人であるイギリスのアミット・パテル医師は、2012年11月に両目から大出血をし、失明した1カ月後、血まみれの少女が目の前に現れるようになったそうだ。
「彼女はとても鮮明で、ドレスの細部まで見ることができました。彼女の顔は血に染まっていました」(パテル医師)
パテル医師は、その姿を初めて見た時、仰天し階段から転げ落ちてしまうほどだったというが、今では不愉快な日常の一部になってしまっているという。
「仕事をしていても、子供たちと一緒に道を歩いていても、突然彼女が現れるんです。娘のオムツを替える様子を見ていたこともあります。電車の中にもいつも現れます」(パテル医師)
このように視覚障害を持つ人が経験する幻視の症状は、シャルル・ボネ症候群と呼ばれる。18世紀のスイスの博物学者・哲学者シャルル・ボネが1760年に発見した古くから知られる症状だが、現在も研究はあまり進んでおらず、そのメカニズムもまだ分かっていないそうだ。そのため、視覚障害者の半数が罹患していると推定されているにもかかわらず、多くの視覚障害者がこの病気の存在をしらず、社会的な認知も遅れているのが現状だ。
シャルル・ボネ症候群は、精神疾患や脳機能の問題ではなく、視覚障害が原因だと考えられている。花、音符、虹、幾何学模様の幻視など良性のものもあるが、人によっては本から這い出てくるタランチュラ、家の中に突然現れたゾンビ、粉々に砕け散る人、友人の隣に現れるガーゴイルといった恐ろしい幻視を経験する人もいるそうだ。パテル博士は映画『リング』の大ファンだったというが、彼が幻視する少女の霊は貞子のイメージと一致しているという。
英国唯一のシャルル・ボネ症候群に特化した慈善団体「Esme’s Umbrella」の創設者ジュディス・ポッツ氏は、「シャルル・ボネ症候群の患者はよくホラー映画の中にいるような感じだと語ります。彼らは幻視が現実ではないことを知っていますが、自らそれをオフにすることができないのです。治療法もありませんし、逃れることはできません」と、その恐ろしさを語っている。
想像するだに身の毛のよだつ病気である。患者の中には幻視を見たくないから外出を控えたり、うつ状態になったり、幻視のせいで事故に遭ってしまった人もいるという。日常生活の大きな障害となる病気であるにもかかわらず、これまで研究が進んでこなかったのは不幸としか言いようがない。
だが、この夏、遂に英・オックスフォード大学が、シャルル・ボネ症候群の大規模研究を行うことになったという。最初の研究結果は1年以内、論文の形では18カ月以内に発表される予定とのことだ。同時にシャルル・ボネ症候群の誤解が解け、社会的認知が進むことも期待されているという。研究が順調に進み、パテル医師らが平穏な生活を取り戻せることを心より願いたい。
参考:「The Independent」、ほか
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