アパートの巨人女、マッサージ嬢の呪い 「タイぐるり怪談紀行」著者インタビュー(前編)
(バンナー星人) 宝くじについては、だいたいバラモン教の祠やガネーシャ像などに即効性があると信じられていて、そこで願掛けします。お釈迦様の前では、あまりがめついことは言わずに「健康で幸せでいられますように」ぐらいで留めておくそうです。
タイの学校にはどこでもお釈迦様の仏像があり、朝礼時にはそちらに向かって手を合わせて一斉にお経を唱える時間があります。勤務先には、その横にバラモン教の祠もある。霊験あらたかなもの、祈りを聞いてくれるものなら、すべてに祈ってしまおうという素直さと強欲さがあるんです。ある日、夜遅くまで残業した同僚が、誰もいないはずの校舎の廊下で女の霊を見てしまった。その方も、次の日、お釈迦様にがっつり手を合わせたあとで、横の祠にもお供え物をしていました。

——お気に入りの怪談は?
(バンナー星人) 今回収録したもので個人的に気に入っているのは「アパートの巨人女」です。田舎から出て来た男性がバンコクで借りたアパートで遭遇する怪奇現象ですが、この話も先ほど言った「物理エネルギー」満載なお話です。しっとりとした怪談とは対極にある、「パワフルな怪談」とでもいいましょうか(笑)。怖いのかおかしいのかわからない話が、本当にタイらしいんですよね。「滝に潜むもの」では観光客のロシア人が良い味を出していますし、「エアコンの隙間に潜むもの」ではJホラーの貞子を彷彿とさせる怪異が出てきます。一方、プーケットの「津波被災地の不思議な話」は、3.11の日本の話にも共通する物悲しい話です。
あらゆるものが混在しながら雑多に同居する様子は、タイ料理に似ているかもしれません。ときに辛くてしょっぱい、酸っぱいのに甘い「タイぐるり怪談紀行」を、ぜひ皆さんにも味わっていただきたいです。

バンナー星人
2004年よりタイ在住。バンコクの公立学校にてタイの高校生に日本語を教える傍ら、2017年に、高野山大学院通信課程密教学修士号取得。仏教とオカルトが織りなすアメイジングなタイの魅力にとりつかれている。
Twitter : @berialshunnya
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