ブラックホールが恒星を引き裂き“異常な閃光”を放つ「潮汐破壊現象」とは? 最新研究で明かされた衝撃の事実

“ジェット噴射”を見せるAT2022cmc

 米マサチューセッツ工科大学カブリ天体物理学・宇宙研究所のポスドク研究員であり、論文の共著者であるマッテオ・ルッキーニ博士は今回の研究は超大質量ブラックホールへの理解を深めるものになると指摘している。

「銀河ごとに 1つの超大質量ブラックホールがあり、それらは宇宙の最初の100万年の間に非常に急速に形成されました。それは彼らが非常に速く摂取することを示していますが、その摂取プロセスがどのように機能するかはわかりません。つまりTDEのような情報源は、実際にはそのプロセスがどのように発生するかを知るための非常に優れた精査になる可能性があります」(マッテオ・ルッキーニ博士)

 論文の筆頭著者である同じくマサチューセッツ工科大学カブリ天体物理学・宇宙研究所のディーラジ・パシャム博士は、研究チームは「ブラックホールが恒星を摂取しはじめてから1週間以内に、このイベントを最初から捉えることができた」と語った。

 天文学者はAT2022cmcのようなTDEはまれだと言う。科学者がこれらの“ジェット噴射”の1つを最後に発見したのは、10年以上も前のことなのだ。また光学観測で“ジェット噴射”が検出されたのはこれが初めてである。

ブラックホールが恒星を引き裂き異常な閃光を放つ「潮汐破壊現象」とは? 最新研究で明かされた衝撃の事実の画像3
画像は「Pixabay」より

 英リバプール・ジョン・ムーアズ大学の天体物理学の講師であり、論文共著者のダニエル・パーレイ博士は、“ジェット噴射”を見せるAT2022cmc はTDEの典型例であることが示されたと説明する。この研究成果はスペインのリバプール望遠鏡やチリの欧州南天天文台の超大型望遠鏡など、世界中の複数の機器による追跡調査の賜物であるということだ。

 しかし一部のTDEが“ジェット噴射”し、他のTDEが発射しない理由は依然として謎である。だが今後、より高性能な宇宙望遠鏡が打ち上げられることで天文学者はより多くのTDEの観測が可能となり、将来的にいくつかの妥当な答えを得られることが期待されている。

「そして最終的に、ブラックホールがこれらの非常に強力な“ジェット噴射”をどのように正確に発射するかを説明できるかもしれません」(マッテオ・ルッキーニ博士)

 今のところきわめてレアケースである大質量ブラックホールによる恒星の潮汐破壊現象の研究を通じ、まだまだ謎が多いブラックホールについての理解が少しずつでも深まっていくことを期待したい。

参考:「Metro」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
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