1958年から2006年に迷い込んだタイムトラベラー“セルゲイ・ポノマレンコ”は本物か? 「彼は2年間失踪していた」恋人が証言、確たる証拠の数々…

 1932年生まれの旧ソ連人が25歳の姿のままで2006年のウクライナ・キーウに突然現れた――。彼はタイムトラベラーなのだろうか。

“ソ連人タイムトラベラー”の物語

 SNS全盛時代になって増えたものの1つが“タイムトラベラー”だ。

 しかしご存じの通り、その中のかなりの割合が“眉唾”ものであり、設定に生じた綻びを繕いきれなくなってSNSから姿を消す自称タイムトラベラーも少なくない。

 そうした“タイムトラベラー”は往々にして自作自演の“ひとり芝居”を演じているのだが、もしその“演出”に本人以外の人物も関わっているようであれば、その話の信ぴょう性は一気に高まることになる。旧ソ連からやってきたというセルゲイ・ポノマレンコのケースにも複数の人物が関わっていて興味深い。

 2006年4月23日、ウクライナの首都、キーウの街中で挙動不審の男が警察官に呼び止められた。男は古めかしいスーツを着ており、古いカメラを首から下げていた。あたりをキョロキョロと見回していた男の様子があまりにも奇異だったので、警察官は男性を呼び止めたのだ。

 警察官が男に身分証明書の提示を求めると、男はスーツの内ポケットから身分証明書を取り出した。男は1932年年生まれのセルゲイ・ポノマレンコという名前であることがわかったが、その身分証明書はソ連時代の1950年代に発行されたものであったのだ。

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画像は「YouTube」より

 1932年生まれであれば2006年の時点で74歳の老人であるはずだったが、目の前のポノマレンコはどう見ても20代半ばであった。あまりにも不審な点が多かったために、警官はポノマレンコの身柄を確保した。

 ポノマレンコは休日の今日、カメラを持って街に出てあちこちで写真を撮っていたのだと話し、空に釣り鐘型の飛行物体を見かけて急いでカメラを向けて夢中で写真を撮っている間に、いつの間にか見慣れぬ場所へ来てしまったと説明していた。家に帰ろうにも道が全然わからないので警察官に教えを乞うほどであった。そして今日は1958年の4月23日であると主張したのである。

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釣り鐘型UFO 画像は「YouTube」より

 警察当局はポノマレンコの精神状態を疑って精神科医に診せることにした。しかしポノマレンコの精神は正常な状態であり、むしろ謎は深まった。この時のエピソードとして、ポノマレンコが最初に診察室に入って来た時、部屋の壁時計と医師の腕時計の針が同時に止まったという。

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ポノマレンコ(左)と精神科医(右) 画像は「YouTube」より

 ひとまず入院することになったポノマレンコだが、持っているカメラのフィルムを現像してみようという話になった。

 古いカメラに収まっていたフィルムは1970年代に生産が終了している今となっては珍しいフィルムであった。カメラのフィルムは製造から2、3年ほどで劣化して使い物にならなくなるが、ポノマレンコのカメラのフィルムは見たところ新品であった。

 専門家に依頼してフィルムを現像してみると、そこにはいろんなものが写っていた。身柄確保時と同じ格好のポノマレンコのポートレート写真、恋人のバレンティーナとのツーショット写真、1950年代のキーウの街角の風景写真、そして話していた釣り鐘型UFOも確かに写真に収められていたのである。

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セルゲイ・ポノマレンコ 画像は「YouTube」より

 ポノマレンコはやはり正真正銘のタイムトラベラーなのか。当局が彼の処遇について考えあぐねていた矢先、入院病棟の部屋からポノマレンコは忽然と消え去ってしまった。病棟には各所に監視カメラが備えつけられているのだが、ポノマレンコが病棟から出ていった映像はまったく残っていなかった。入院部屋にいながらにして姿を消したとしか考えられないのである。

“タイムトラベラー説”を徹底検証

 当局の調査によって驚くべきことに、ポノマレンコの恋人のバレンティーナは実在していることが判明し、当局はこの74歳の女性に接触して話を聞き出した。

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バレンティーナとのツーショット 画像は「YouTube」より

 バレンティーナによれば、ポノマレンコは確かに1958年4月から2年間行方不明になっていた。

 2年経って戻って来たものの、1960年代に再び姿を消してしまったという。

 1970年頃にバレンティーナのもとに封書が送られてきたのだが、その中には2050年の未来のキーウの街を背景にしたポノマレンコの写真が入っており、その写真はもちろん今も保管してあるのだった。

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2050年のポノマレンコ 画像は「YouTube」より

 また1960年代のラジオ放送にポノマレンコが出演していたことも突き止められ、その番組で彼は2006年の世界で知った電子レンジや無線電話、人工心臓について語っていたことがアーカイブに残されているという。

 このように当局をはじめ複数の関係者が登場する一件であるだけに、ポノマレンコの“タイムトラベラー説”はかなり説得力を持つのかもしれない。

 YouTuberのジョー・スコット氏はこの事件を徹底的に検証する動画を作成し、自身のYouTubeチャンネル「Joe Scott」に投稿している。動画によれば2050年のキーウの街には、明らかにニューヨーク・マンハッタンのエンパイアステートビルがあり、Photoshopのコピー&ペーストで画像加工されたビル群であることは火を見るより明らかであるという。

 極めつけは、何もそんな細かい点を指摘しなくとも、このストーリーは2012年にウクライナで放送されたテレビドラマシリーズ『ALIEN(エイリアン)』の第3話「TIME TRAVELLER」の内容そのものであったのだ。したがってポノマレンコをはじめ、バレンティーナも精神科医も警察官も実在する人物ではなくすべては俳優であり、物語はフィクションなのである。

『ALIEN』はウクライナのテレビ業界でかなり力を入れて制作されたドラマであったようだが、ヒストリーチャンネルにあるようなタイプの番組ほどには注目されなかったようだ。

 もともとテレビドラマのストーリーだったものが、そのうち誰もその出典がわからなくなってしまい、話だけが一人歩きして都市伝説化してしまったということのようだ。

 いささか拍子抜けする顛末に終わってしまったが、情報が溢れ錯綜している今日、このような現象が実際に起きることを知っておいて損はないのだろう。

参考:「Daily Star」「indy100」ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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