伝説のUMA「ローンパイン・マウンテン・デビル」とは? 残忍で凶暴な“神に呪われた獣”

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画像は「Getty Images」より

 2000年代、アメリカ・カリフォルニア州を中心に奇妙な生物に襲われたという報告が相次いだ。その生物は非常に凶暴で毒のある牙を持ち、羽毛に覆われた大きな翼があったという。UMA(※1)研究家は目撃された生物の特徴と凶暴性から、この地域で昔から語り伝えられていた「悪魔」ことローンパイン・マウンテン・デビルが復活したのではないかと推測した。

 アメリカには有名な「悪魔」と呼ばれるUMAジャージー・デビルが広く伝わっている。悪魔崇拝者の赤ん坊が姿を変えたとされるこのUMAは後足で立ったウマにコウモリの翼が生えたような外見をしており、凶暴性と驚異的な俊敏性及び飛行能力を有しているとされた。なお、現在ではほとんど目撃されないものの、正体不明の翼を持つ生物が目撃されると、モスマンと同様に名前が上がるUMAでもある。

 そんなジャージー・デビルの西海岸版と言われていた生物がローンパイン・マウンテン・デビルだ。カリフォルニア・マウンテン・デビルとも呼ばれるこのUMAは、アメリカ南西部やメキシコ北部の荒野や山岳地帯に生息すると信じられており、カミソリのような爪と幾重にも重なった猛毒の牙、複数の大きな翼を持つ生物とされている。名前は生息地のひとつとされるカリフォルニア州ローン・パイン郊外のシエラネバダ山脈と、その残忍で凶暴な性質に由来するといわれる。通常、野生動物は補食のために獲物を攻撃するが、ローンパイン・マウンテン・デビルは獲物の顔や胴体の柔らかい部分だけに手をつけ、残りの肉は腐らせるか他の動物に食べさせるといわれている。

 19世紀半ば、南西部の荒れた砂漠や山の荒野でこの生物の仕業と思われる虐殺されたコヨーテやヤマネコの異様な死骸が多数発見されたことから、初期の入植者たちを中心にローンパイン・マウンテン・デビルの話は広まっていった。何でも、この悪魔のような生物によって入植者の一家や金鉱探鉱者の車列全体が殺され、顔は判別不能になり、胴体は骨まできれいに食べ尽くされたとする話があちらこちらで囁かれたという。

 ローンパイン・マウンテン・デビルの被害として最も有名な記録は、1878年にスペイン人入植者の駅馬車列車が南カリフォルニアのシエラネバダ山脈で消息を絶ったときのものだ。男性、女性、子供を含む37人の入植者の一団がサンディエゴから北に約110マイル離れたミッションへ到着する予定だったのだが、彼らは跡形もなく姿を消してしまった。数週間が過ぎた頃、ジャスタス・マルティネス神父がミッションに到着した。彼は非常に衰弱していただけでなく、馬も物資もなく、衣服と日誌だけを携えていた。尋問が行われても神父は語らず、旅の途中で”神に呪われた獣”に直面したので、沈黙の誓いを立てたと他の神父に告げただけだった。そんな神父の日誌には最後の方にスペイン人入植者らの身に何が起きたかが克明に書かれていた。大陸横断の旅で疲れた入植者たちは、キリスト教の祭日を祝う宴を開いたのだが、やがて宴は「乱痴気騒ぎ」へとエスカレート。入植者たちは熱と明かりのために木を燃やし始めた。神父は車列から外れたところに小さなテントを設営して一人離れていたところ、木々の間から「翼のある悪魔」が次々と現れ、入植者たちを群れで襲う様子を見てしまったというのだ。神父の日誌の最後にはこう書かれていた。

「神よ。神よ。彼らはすべていなくなった。翼を持つ悪魔が蘇った! 彼らは互いに、そして汝の聖なる大地に対して、どのような罪を犯したのか。寛容なる主が、彼らから地獄の底へと連れ去られた魂を見放されませんように! そして、人間の地上の炎の中、山の頂に一本の木が残った。そして、私を赦した悪魔たちは、山の上の一本松の避難所に戻った。」

 それから2カ月後、腐敗した入植者たちの死体が銅採掘者の一団によって発見されたという。

 ローンパイン・マウンテン・デビルの話は入植者たちの間で語り伝えられていたが、1900年代初頭以降は目撃証言も激減した。20世紀初頭に南カリフォルニアの地域(ロサンゼルスとサンディエゴ地域)に人口が大量に流入した時と時期を同じくしているため、人々に住みかを追われたとする説もある。

 そんな伝説の悪魔が1世紀近くの沈黙を経て、2003年に突如として姿を現したのである。カリフォルニア在住のUMA研究家によれば、目撃例は2003年から2010年の間に急激な増加を記録したという。また、2010年3月以来デスバレー地域で行方不明になっている地元の高校生グループの失踪事件もローンパイン・マウンテン・デビルが関係している可能性があるとして、当局が調査しているという。

 さて、この非常に凶暴なUMAローンパイン・マウンテン・デビルの正体は何なのか。デビルの目撃例が再燃した時に、目撃者によるスケッチや証言から得られた身体的特徴から上がったのが、羽毛を持つ小型の恐竜ないしは初期の捕食鳥類という説だ。これらのマイクロラプトルと呼ばれるこれらの生物は前肢と後肢に翼が備わっており、シノルニトサウルスのように毒を持つ動物にのみ見られる特徴である、歯の後方に向かって外面に溝が走っていることが判っている。また北米の民間伝承にも、毒牙と爪を持つ複数の翼を持つ生き物の話があるため、有毒の小型恐竜が北米大陸のどこかに潜んでいたのではないか、と考えられたのだ。

 しかしローンパイン・マウンテン・デビルの話は2021年に急展開を迎える。

 UMAに関する話題を扱うYouTubeチャンネル「Crash-Course Cryptozoology channel」が、ローンパイン・マウンテン・デビルに関する17分のドキュメンタリーを制作した。彼らの調査によって、2000年代によみがえった「悪魔」の伝説はある動画を元にしたインターネット上のデマであることが明らかになったのだ。発端は、2010年にアメリカのコメディ・トリオのChad Mattand Robが「Mountain Devil Prank fails horribly(山の悪魔の悪ふざけは大失敗)」というホラー・コメディ短編ビデオを公開したものだった。その後オリジナルの動画は削除されたが、そのコピーはYouTube上に今も存在している。ローンパイン・マウンテン・デビルを目撃した人物によるスケッチに描かれている多翼の悪魔は、この動画の最後に登場する生物の姿に酷似していたのだ。

 オリジナルが失われてしまったことにより、動画を見た人たちが伝説をもとに話を作り上げ、話が広がっていった結果生まれたUMAがローンパイン・マウンテン・デビルだったのかもしれない。

(※1) UMA(ユーマ、Unindentified Mysterious Animal)とは未確認生物を意味する和製英語。未確認生物とは何世紀にもわたって語り継がれてきた物語や伝説に登場したり、また、今日でも目撃例があるが実在が確認されていない生物のことだとされている。物語、伝説、噂話などで語られる生物であるため、科学的な対象ではなく、“オカルト”に分類される。英語圏で、未確認生物はCryptid (クリプティッド)と呼ばれ、これを研究する学問はCryptozoology(クリプトズーロジー、暗号生物学)と呼ばれるのが一般的。

参考:「Cryptidz

【本記事は「ミステリーニュースステーション・ATLAS(アトラス)」からの提供です】

文=加藤史紀(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

ミステリーニュースステーションATLAS編集部員
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