エロくて強い正義の味方が誕生! 永井豪原作『唐獅子仮面/LION-GIRL』 光武蔵人監督インタビュー(前編)

『デビルマン』『マジンガーZ』『キューティーハニー』など、数多くの傑作を世に送り出してきた漫画界の巨匠、永井豪による描き下ろし原作を実写映画化! エロスとバイオレンスに満ちたスーパーヒロインの名は『唐獅子仮面/LION-GIRL』!

 

 本作の監督は、『サムライ・アベンジャー/復讐剣 盲狼』『女体銃 ガン・ウーマン』など、過激なジャンル・ムービーを世界に発信し続ける鬼才、光武蔵人。人類滅亡寸前の世界に誕生した唐獅子仮面と悪の戦いを描く。『ボルケーノ2023』のトリ・グリフィス、『13日の金曜日』のデレク・ミアーズら、キャストも豪華だ。

 今回TOCANAでは、映画の公開に先駆けて光武監督にインタビューを行った。制作に至った経緯やコンセプト、キャスティングなど、本作の魅力をたっぷり語ってもらった。

撮影:本間秀明

『唐獅子仮面』制作に至った経緯

――『唐獅子仮面』制作に至った経緯や永井豪先生と出会ったきっかけを教えてください。

光武蔵人(以下「光武」):ある映画企画がポシャってしまったんですよ。このとき一緒に進めていた東映ビデオのプロデューサーが僕を不憫に思って、「うちで何かやってください」と声をかけてくれました。僕は自分のオリジナル企画をいろいろ出したけれども、良い返事をいただけないことが続いたので、打ち合わせのときに「日本の映画スタジオさんでOKしてもらうには、手塚治虫とか永井豪とか、有名漫画家の原作がないとダメなんですか?」とちょっと皮肉で言ったんですよ。そうしたら、「東映グループは永井先生と仲が良いですよ」と言われて、「マジですか? 大ファンなんですけど! 永井先生の漫画を原作とした企画を書いてみますので、それをとりあえず見てもらえますか?」となりました。

 僕が一番好きなのは『デビルマン』です。でも、『デビルマン』はハードルが高いビッグタイトルなので、「やらせてもらえないだろうな」と思って、「キューティーハニーUSA」という企画を立ち上げたんですね。『キューティーハニー』をアメリカで撮影して、原作通りに変身のときはヌードになるし、かなりブラッティーでゴアな戦い方をするというという企画です。そうしたら、東映ビデオさんがこれをダイナミック企画に持って行ってくれました。でも、ダイナミック企画から「現在、女の子に受けるような、キラキラの『キューティーハニー』を舞台でやっているので、ハニーちゃんを血まみれにすることはできないんだよね」と言われたんですよ。僕は「お断りで終わりかな」と思っていたら、逆に永井先生が「この監督にはこのキャラクターがいいんじゃない?」ということで、描き下ろしの『唐獅子仮面』をデザインしてくださいました。東映ビデオ社内は「永井先生が映画のために描き下ろしちゃったのか?」とざわつきました。

 永井先生が動いてくださるなら僕らも引くに引けないという形で、今回の映画化がスタートしました。

――個人的に永井先生とお付き合いがあったわけではないんですね。

光武:全然ありませんでした。永井先生は小学4年からの憧れの人ではありましたが、僕はただの一ファン、一コレクターでしたね。

©2022 GO NAGAI/DYNAMIC PLANNING・TOEI VIDEO

――永井先生の原作を映画化されたのが『唐獅子仮面』ですが、監督ご自身で原作から作られた映画との違いはありましたか?

光武:『唐獅子仮面』は、原作漫画が無く、原案という形でキャラクターデザインと、主人公の緋色牡丹の変身のし方や生い立ちといった、本当にベーシックな設定だけだったので、自由度は高かったんですよ。もちろん、永井先生の原案があるので、自分が脚本を書いたときには全然感じたことのないプレッシャーはありましたけれども、自由度が高かったので、今までと違う感じはなかったですね。

 シノプシスを書いて、映画用のストーリーを組み立てて、永井先生にお送りすると、永井先生から「ここは変えた方がいいんじゃない?」とか「ここはこの方がいいんじゃない?」とかアドバイスをいただけます。そんなアイデアのキャッチボールが本当に嬉しくて光栄でした。

 永井先生は50年近くトップランナーで、現在も連載されています。だから、アイデアの出し方とか、アイデアの上乗せのやり方とか、非常に的確でした。クリエイティブな関係でやり取りしていると時々意味不明なこと言われることがあるじゃないですか? 永井先生にはそういうのが全く無く、全部「なるほど!」という感じでした。50年近くアイデアのやり取りをいろんな方とされている方は、やっぱり何の誤解も生じさせないし、本当にお上手だなと思って、非常に刺激的でしたね。僕にとっては、永井先生とのコラボレーションは至福の時間でしかありませんでした。

――いただいたアドバイスで、特に印象に残っているものを教えてください。

光武:地球に降り注いだ隕石で文明が滅びたという設定があります。そのアイデアを最初に出したとき、イギリスの古典的SF小説『トリフィド時代』(1951年)の名前を永井先生が出されたんですよ。地球に植物が落ちてきて、その植物に文明が覆い尽くされるという話ですが、それを例にとってアイデアの補強というか、「こういう方向でどう?」と言っていただきました。このとき、強く「なるほど!」と納得しましたね。先生は古今東西の物語に精通していらっしゃって、貪欲にいろんなものを吸収されているので、やっぱりアイデアの引き出しがめちゃくちゃ広いなと思いました。

光武蔵人監督から永井豪先生へのラブレター

©2022 GO NAGAI/DYNAMIC PLANNING・TOEI VIDEO

――永井先生の原作をアメリカで映画化するのはチャレンジングだと思います。

光武:僕はもともとロサンゼルスに住んでいるということもあり、日本の会社に制作費を出してもらって、それをアメリカで実写化するのを今までやってきました。東映ビデオさんが最初に僕を雇った段階からそうしてほしかったんだと思います。東映ビデオさんはビデオ・バブルの頃、「東映Vアメリカ」というシリーズを制作していたこともあるくらいなので、海外展開を常に意識しています。

――監督が過去作のインタビューで「これからは日本で映画を撮っていきたい」とおっしゃっていたので、日本で撮影するという選択肢もあったのではないでしょうか?

光武:そうですね。ただ、今回は特撮も意識したジャパニーズヒーロー物なので、やっぱり日本でやると日本の形に収まっちゃうかなという懸念がありました。日本ではベタになってしまうことをアメリカでやるのがよかったと思います。

――たとえば、広大な砂漠などを撮影しようと思っても、そもそも日本では難しいですからね。

光武:日本でああいう景色を撮ろうと思ったら、鳥取に行くか、CGにするかになりますよね。ロサンゼルスだと、ああいう景色が1時間15分くらい車で走ればあります。そもそもロサンゼルスが映画の都になった理由は、市街地から北に1時間走れば砂漠があって、南に1時間半走れば海があって、東に1時間走れば山があるからです。しかも、1年365日の360日は晴れているという立地です。そういう意味でロケーションは本当にいろいろあるので、アメリカでしか撮れない画を撮ろうと意識しました。

――『唐獅子仮面』には永井先生の作品のオマージュが見られましたが、これらは永井先生のファンに対するサービスでしょうか?

光武:自分に対するサービスでもありますね。企画が立ち上がった段階から「この映画は僕から永井先生へのラブレターだ」というテーマが僕の中にありました。

©2022 GO NAGAI/DYNAMIC PLANNING・TOEI VIDEO

 たとえば、女性がアノロックに変身する冒頭のシーンでは、『デビルマン』の最初でサバトでデーモンと合体する女の人と同じポーズを取ってもらったり、同じようにシャドーを付けてもらったりしています。「このカットはあれだね」と言いながら楽しんでいただければと思います。永井先生のファンの方たちと答え合わせ上映みたいなのをやってみたいですね。

――永井先生の漫画の印象的なシーンがあちこちに盛り込まれているのは、永井先生からのご要望ではなかったのですね。

撮影:本間秀明

光武:そうです。永井先生は放し飼いにしてくださったので、逆に「ここまでオマージュだらけにしていいんですか?」状態で、東映のプロデューサーが心配していたくらいです。でも、何の問題もなく、永井先生にも非常に楽しんでいただけました。

――永井先生のファンがニヤッとできる映画だと思います。

光武:ニヤッが散りばめられていると思います。

――そういう意味では、監督の過去作に出演されていた俳優さんが出演されていたり、火星移住計画の宇宙船の名前になっていたりするのも印象的でした。

光武:そうそう。宇宙船の名前が、『サムライ・アベンジャー』(2009年)の悪役を演じてくれたドミチアーノ・アーカンジェリという俳優の名前です。残念ながら、彼はコロナ中に事故で亡くなっちゃったんですよ。彼とは「またいつか組みたいね」という話をずっとしていたんですけど、組めなくてなってしまったので、宇宙船の名前を彼のオマージュにしました。

「強きを挫き、弱きを助ける=任侠」というコンセプト

――作品のあちこちに日本語のセリフがあります。たとえば、宿敵の鬼死魁星が「オマエハクビダ」と言って部下の首を刎ねるシーンがあります。こういうのを海外の俳優さんはどう受け取るのでしょうか?

光武:非常にノリノリでやってくれますね。「オマエハクビダ」は、アメリカでは「クビ」と言わないで “fired” なので、あれを英語のギャグにするなら、 “You’re fired.” で “fire” して(銃で撃って)終わるというギャグになります。それをちゃんとデレク(鬼死魁星役の俳優)に説明したら、彼が「おもしろいね!」とノリノリでやってくれました。

――こうした日本語を英語圏の方々が観てどういう反応をするのか、気になるところではありました。

光武:やっぱり楽しんで観てくれますよ。90年代~2000年初頭に「アメリカ人は字幕が読めない」とよく揶揄されましたけど、今は読むんですよね。その証拠に『ゴジラ』や宮崎駿監督のアニメがヒットしています。アメリカ人は字幕に全然抵抗がなくなってきています。これはテレビゲームのおかげかなと思っているんですよね。ゲームは字幕が出るじゃないですか? あれに育てられたアメリカの今の若い世代は、映画を字幕で観るのにそんなに抵抗がありません。逆に、日本人が今、吹き替え版の洋画の方を好むので、字幕が読めないのは日本人になっているのかなと思います。歴史は繰り返すというか、いろんなことが回っていきますね。

――英語のセリフでも、「仏に逢うては仏を殺し……」と言っているのは禅の思想ですが、これは外国の方々になじみがあるのでしょうか?

光武:なじみはないですけれど、おもしろがってくれますよね。アメリカの俳優さんはわからないことをガンガン聞いてきてくれます。だから、僕が「これは禅の思想なんだ」と説明すると、彼らは “Oh!” と言ってノってくれます。

撮影:本間秀明

――『唐獅子仮面』で最も大切なコンセプトの「任侠=ヤクザ」は、現在の日本だと暴対法などの影響もあって悪者扱いされがちです。そのヤクザが今回はヒーローと結びついているので、外国の方々が理解しにくいのでは?

光武:もちろん、アメリカ人も「ヤクザ=マフィア」みたいなイメージです。でも、『唐獅子仮面』に登場するのはオールドファッションヤクザ、すなわち、「任侠」があった頃のヤクザです。彼らは、政府がちゃんとしていなかった時代に、少しお金をもらって村や町を守る自警団だったわけですよ。だから、「強きを挫き、弱きを助ける」です。僕が、犯罪組織になる前の、ピュアだった頃のヤクザについて話すと、それもアメリカ人キャストはおもしろがってくれました。「任侠」というコンセプトもちゃんとわかってくれましたね。

(文=本間秀明)

※「「何か感じる」心霊スポットで撮影! 永井豪原作『唐獅子仮面/LION-GIRL』 光武蔵人監督インタビュー(後編)」はこちら。

唐獅子仮面/LION-GIRL

2024 年 1 月 26 日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、

池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿 他 全国ロードショー!

原作:永井豪 監督:光武蔵人

キャスト:トリ・グリフィス/ダミアン・T・レイヴン/岩永ジョーイ/デレク・ミアーズ/シェルビー・パークス/マット・スタンリー/

製作:東映ビデオ/2023年/日本/カラー/121分/

配給:エクストリーム

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TOCANA編集部

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