エイリアンの地球侵略で人類は滅亡か? “異種との共存”を描く映画『みーんな、宇宙人。』 宇賀那健一監督インタビュー
世界20ヶ国80以上の映画祭に入選、11 のグランプリに輝く『異物』シリーズなど、国際的に注目される鬼才監督、宇賀那健一の『みーんな、宇宙人。』が全国ロードショー!
ファッション&カルチャー雑誌『NYLON JAPAN』20周年を記念して製作された本作は、2022年公開の短編映画『モジャ』と6話の新作短編映画から構成される完全オリジナル長編映画。人類を滅ぼすために地球へやって来た宇宙人のモジャと、彼らと出会った地球人たちが紡ぐ物語をオムニバス形式で描く。モジャは人々との対話を通して人間の本質を理解し始めるが……。
今回TOCANAでは、映画の公開に先駆けて宇賀那健一監督にインタビューを行った。本作に込めた思いやキャストの魅力、さらには宇宙人に関する見解までたっぷり語ってもらった。
不条理の中で進化していく能力を人間は持っている
――『みーんな、宇宙人。』は『NYLON JAPAN』20周年プロジェクトの一つとして製作されましたが、その経緯について教えてください。
宇賀那健一(以下「宇賀那」):『NYLON JAPAN』15周年記念で『転がるビー玉』(2020年)を制作したとき、「また映画は作りましょう」という話はしていたんですね。それで当初は『みーんな、宇宙人。』とは全然違う企画を出していたんですけど、それが動き出そうとしたタイミングでコロナ禍になって、止まってしまいました。改めて動き出すときには全く違う短編映画を提案しました。それが本作の短編バージョンである『モジャ』です。短編にしたのは、長期撮影がいろんな意味でリスクを伴うからです。誰かコロナになってしまったら現場を止めなければいけないし、そうなると予算的にもダメージが大きいんですよ。
もう1つの理由は、僕が短編の連作で撮った『異物 -完全版-』(2022年)と『悪魔がはらわたでいけにえで私』(2024年)が、短編だったころから多数の海外の映画祭で上映していただいたからです。この2つの映画については、アナログで温かみのある何かを今あえてやることが評価されたのかなと思っています。それから、会話自体はすごく少ないんだけど、だからこそ役者の芝居で伝える要素が多くなって、それが海外の方にも伝わりやすかったんだと思います。
1つめの理由である、短編から広げていこうという方針は、今回も同じですね。2つめの理由に関しては、『異物 -完全版-』と『悪魔がはらわたでいけにえで私』で、台詞を極力排して物事を起こしてそれに対するリアクションで展開していくことはある程度やり切ったと思っていたので、真逆の会話劇をやってみたかったんです。
コロナ禍でいろいろな人たちの想いが炙り出されていく中、「人間とは何だろう?」と思ったんですよね。もしかしたら、それを宇宙人目線から見ることによって客観視できるんじゃないかなと思いました。宇宙人だからこそ、人間に対して、当たり前のことに疑問を抱きます。そういう会話劇の案を『NYLON JAPAN』の社長に持ちかけました。
――プロデューサーの戸川さんは「短編映画『モジャ』を製作した時、すでに今回の長編映画のイメージは出来ていた」と書かれていました。『モジャ』の段階で長編化の構想があったのでしょうか?
宇賀那:「後に長編化できたらいいね」という話はありました。『モジャ』では、モジャが地球を征服しに来た設定を劇中では描いてないんですよ。でも、それは裏設定としてはあったので、僕と戸川さんで「何とか実現したいよね」とずっと話していました。そういうフワッとした感じで、「地球を侵略しに来たエイリアンがいて、でも、人間を愛してしまって人間側につく」という大きい枠組は決まっていました。
――監督は『異物 -完全版-』のインタビューで「不条理な出来事が降りかかって苦悩する登場人物に対して、監督としての優しい目線を向けたい」と言っていました。今回の映画でもやはり同じことを考えていたのでしょうか?
宇賀那:考えてはいましたね。宇宙人が現れること自体が不条理ではあるし、それによって逆に、人間たちが普段思っていることを話せて、何かが変わっていきます。不条理な出来事は悪いことに捉えられがちですけど、その中で進化していく能力を人間は持っていると信じて作った部分はありますね。
人間の弱さやダメさは一方で愛おしさでもある
――モジャたち登場人物のセリフは、映画を観た人たちの心に刺さるものが多かった印象です。こうしたセリフの中で、特に監督が今回伝えたかったものがあれば教えて下さい。
宇賀那:セリフというか、ストーリーの中で特に伝えたいことはあります。弱さやダメさみたいなものを愛する能力がモジャたちには備わっています。人間のことをわかってないから、そこを初めて見て「愛しい」と思うんですね。ただ、これは、モジャたちだけでなく、僕たち全員がそういうことをできる気がしています。そういう目線を日々持つことができたらいいんじゃないかな。人間の弱さやダメさは一方で愛しさでもあると思うので、そこをすくい上げたいと思いましたね。
――そういう人間の弱さやダメさを映画化する際、登場人物のセリフを工夫する必要があると思います。
宇賀那:ここ最近はそれをセリフにしないことをずっと選んでいたので、『みーんな、宇宙人。』は僕の中で大きい変化で、かつ、怖かった部分でもあるんですよ。失敗すると白々しくなってしまうからです。でも、そこは俳優部の皆さんが上手くやってくれました。
セリフについては、まず大枠のテーマを戸川さんと決めました。「こういうテーマとこういうテーマを入れ込みたいよね」と。それでそれに合わせて僕が脚本を書いていって、それに合わせて戸川さんがキャラクターのデザインやより細かい設定を考えてくれました。今回は今まで以上にプロデューサーと話し合って作った作品ではありますね。
僕は、映画作りの2周目に入った感覚があります。僕が以前撮った『クリスマスの夜空に』というオムニバス映画では、主人公の一人が「オレオレありがとう」をしていて、しかも、宇宙人が出てくるんですよ。『みーんな、宇宙人。』と全然話は違うけど、リブートしている感じがあります。
2016年に『黒い暴動』で長編映画デビューさせてもらってから8年経って、今までよりわかってきたこともあるし、できるようになってきたこともあります。いろんな人とつながるからこそできるようになってきたこともたくさんあって、そこにもう一回帰ってきている感じがすごく楽しいし、本質的に変わらないんだなとすごく思いますね。
――確かに、監督の映画全てに一貫しているものがあると感じます。ところで、セリフ以外で拘ったことがあれば教えてください。たとえば、セイヤがミントにタバコをあげているシーンは印象的でした。
宇賀那:全ての映画に対して僕がずっと思っていることの一つに、「メインストリームに立てない人たちにカメラを向けたい」というのがあります。タバコは現在、海外だと薬物みたいなイメージになっていて、映画祭に作品を出すときにも「喫煙のシーンがありますか?」と聞かれることもあります。タバコは人間のダメな部分かもしれないし、吸わない方が健康的かもしれません。でも、僕は「映画で潔癖に排除するべきことなのか?」「映画はそういうダメな部分をすくい取るメディアだったんじゃないのか?」と思っています。タバコはそういうメタファーかもしれません。僕は喫煙しないんですが(笑)。
――セイヤがミントにタバコをあげるのは、社会に対する批判も込められていたんですね。
宇賀那:ジブリ映画でも、何かをあげる行為は重要なキーワードとしてあって、わかりやすく交流を表します。今回は、何かをあげる行為が、エイリアンと人間の交流の一つの象徴としては重要だったかなと思います。
――ミサトもオレンジに食べ物をあげていますよね。宇賀那監督は食事のシーンに拘りがあるとお聞きしたのですが、ミサトのシーンにもやはり拘ったのでしょうか?
宇賀那:食べるシーンは、人間が生きている感じがすごくするし、それをあげるとなるとさらにすごく象徴的なものになります。だから、そこは拘りましたね。
かわいい映画に込められたシニカルなメッセージ
――オレンジの胃の中で笹口騒音オーケストラの皆さんが歌ったり、ヒロトとクロウがラップバトルを繰り広げたりして、音楽的な部分でも拘りがあったように思います。そういった部分でも観てほしいところがあれば教えてください。
宇賀那:前回の『モジャ』は対話を一つのテーマにした短編でした。それを「どうやって更にエンターテイメントにしていくか?」と考えて、その手段として音楽が重要になっています。今回の映画は、パッと見かわいいけど、割とシニカルなメッセージがいろいろ込められています。そのシニカルな部分を笹口騒音オーケストラの方々に上手く伝えてもらったと思っていますね。
僕は映画作りにおいて、いつも音をすごく重要視しているんですよ。今回はエイリアンなので、何をやってもよくてやりやすいのと同時に、ここまで振り切れるシチュエーションもありません。だから、胃の中の音とか、好き勝手にやらせてもらいました。
――ヒロトとクロウが、地球を滅ぼすかどうかという議論を、普通の対話でなくラップでやるところ斬新で、すごく印象に残りました。
宇賀那:解決に向けての議論を暴力じゃない形で見せていくのに適していると思って、ラップを入れましたね。
――監督はあまり演技指導をなさらないという話も聞きましたが、今回もそうだったのでしょうか?
宇賀那:キャスティングした時点である程度信頼しているので、現場ではあまり言わないことが多いですね。ただ、根本の部分が違うときや、そもそも方向性が違うときは、めちゃくちゃ話します。
――今回はモジャを動かす黒子もいましたが、モジャの動きが正しいかどうかを黒子本人は確認できないと思います。そういうところもあまり指導しなかったのでしょうか?
宇賀那:そこは、僕だけでなく、演出部や撮影部も含めて細かくやりましたね。黒子はもともとパペットを動かす人ではなく役者だし、僕もパペットをいつも撮っている人間ではないから、「どうすれば上手くごまかせるのか?」とかもかなり考えました。
夏の撮影で全身ブルータイツは暑いし、腕も大変だし、その中で芝居もしなければいけません。かといって、パペットの人に任せるのは今回の作品においては違うような気がして、動きも含めて役者が責任を持ってやるべきだと思い、役者にお願いしました。
僕もどうやれば正解なのかがわからないので、全スタッフ、全キャストで試行錯誤しながら作った感じです。
兵頭功海が純粋であるが故に狂気じみたセイヤを演じる
――キャスティングについてお聞きします。まず、兵頭功海さんを『モジャ』のセイヤ役に採用した理由を教えてください。
宇賀那:兵頭君とは『Love Will Tear Us Apart』(2023年)のオーディションで出会っていて、そこで「次はガッツリやろう」とは言っていました。
『モジャ』の脚本を書いたとき、セイヤはちょっと天然で純粋だけど、純粋であるが故に狂気じみたところもある、割と繊細なキャラクターだと思っていたんですよ。普通の主人公は悩んで成長するけど、セイヤはわかりやすくそれがあるわけじゃありません。ずっとセイヤのままという美しさです。もちろん、彼女がいなくなっちゃうかもしれないという不安を抱えつつ、彼女と一緒にい続ける選択をしている時点で、彼なりの成長はあると思います。でも、実際は、ミントの方が悩んで変化していくという、ちょっと不思議な構成になっています。
その中での変化を表すに当たって、いろいろと踏み込んで考えてくれて、かつ、繊細なお芝居をしてくれる方がいいなと考えました。そこで浮かんだのが兵頭君でした。
『モジャ』にバーで話しているパートがありますが、セイヤがどのぐらいどういう思いで彼女のことを思っていて、それを客観的に見てどれぐらい狂気を孕んでいるのかという部分は、兵頭君と結構やり直しました。モジャの動きとかじゃなく単純な芝居だけでいうと、あそこが一番テイクを重ねているんですよね。でも、兵頭君はすごく楽しんでやってくれたし、逆に「粘ってやってくれて嬉しかった」と言ってくれました。セイヤのキャラクターは兵頭君と一緒に作っていったという印象があります。
映画作りのおもしろさが詰まっている作品
――今回はメインキャストが新たに5名追加されましたが、各キャストさんについても教えてください。
宇賀那:菊地姫奈さんは、とにかく真っ直ぐなキャラクターと芯の強さを演じるのがすごく上手いなと思いました。ミサトがご飯を長く食べるシーンは、現場の連携ミスで菊地さんに話が上手く伝わっていなくて、菊地さんはいつ止めていいのか分からず延々と食べ続けていました。普通だったら途中で限界になって食べるのをやめると思うんですけど、僕が焦って止めるまで菊地さんはずっと芝居し続けていたんですよ。その真っ直ぐさがミサトのキャラクターにすごく合っていたし、すごく魅力的なお芝居をしてくださったなという印象です。
西垣匠さんはパペットとの恋愛パートで、めちゃめちゃベタベタなのをやるから、恥ずかしさが出て、「俺は何をやっているんだ?」と我に帰ったら終わってしまうんですよ。でも、西垣さんはそこを全く疑いなくやってくれたし、物語の中でのゴールが最初から見えていた気がします。だから、エイリアンとのラブコメという新しいところを開拓してくれた感じがしましたね。
三原羽衣さんが演じたレイは、「実はオリーブは自分のペットじゃない」という寂しさみたいなものを孕んでいなければいけないので、そこについてはオリーブへの思いのバランスも含めて三原さんと話しましたね。それから、撮影現場が一番過酷だったんですよ。気温がとんでもない日で、なおかつ代々木公園での撮影もあって、めちゃめちゃハードでした。でも、三原さんはすごく楽しんでいろいろ試してくれて、それがレイに上手く反映されていましたね。
草川拓弥君はそもそもラッパーではないんですよ。だから、芝居だけでなくフリースタイルを覚えなければいけないという、かなりのハードルの高さがあったのに、めちゃくちゃ高いレベルで仕上げてきてくれました。草川君のシーンの撮影日もかなり暑かったんですが、モジャたちだけの芝居のところも「出来るだけ現場で他の人の芝居も見ていたい」と言って現場にいてくれて、すごく芝居や作品に対する愛のある人だなあと思いました。
YU君は感情の沸点を上げるのがめちゃくちゃ上手いなと思いました。YU君のパートは、中身が無茶苦茶なので脚本上だと何が起こるかすごくわかりにくいと思うんです。また、結構ちゃんとカットも割っているシーンなので、集中も途切れがちです。その中で、YU君は、地球が滅びるかもしれないという設定を、滅びるようなシチュエーションの衣装や美術があるわけじゃないところで、気づいたらもう泣いているみたいな芝居まで持っていってくれました。YU君にこのシーンは引っ張ってもらいましたね。
パペットの芝居はギミック的なことで待ち時間が長くなったりやり直しが何度もあったりして、俳優部はモチベーションを保つのがなかなか大変なんですよ。その中でそれぞれ皆さんがとても高いレベルで集中力を保ってくれて、且つそれぞれ色々考えて現場で試してくれたから良い作品になったと思っています。
――本当にキャストさんそれぞれに個性があって、どのパートを見ても感動しました。他に撮影裏話などがあれば教えてください。
宇賀那:CGが入っていないシーンだと、全身ブルータイツの人が後ろに2人立っているので、僕も我に帰るとめちゃめちゃツボに入っちゃうんですよ。みんな芝居しているから、ブルータイツの裏で表情も変わっているし、その様はすごく滑稽です。でも、このバカバカしさが映画作りのおもしろさを体現していて、それが詰まった作品なんじゃないのかなと現場で常々感じていましたね。
――今回も海外展開を考えているんですか?
宇賀那:完成がギリギリだったので映画祭もこれからです。ただ、短編の『モジャ』をモントリオールで上映したとき、モントリオールの方々はモジャが地球を侵略しに来ていたことを全員わかっていました。映画祭にわざわざ来る方々だから、映画好きで、そこを読み取る能力が高いんですよ。そういった方々が今回の映画をどう思うのかはすごく気になるところではありますね。
宇宙人だから話せることも絶対にある
――今回の映画は宇宙人ネタなので、宇宙人に関連する質問をさせてください。監督は宇宙人はいると思っていますか?
宇賀那:僕はいてもいなくてもどっちでもいいやと思っているんですよ。いたらいたで多分そんなにびっくりしない気もします。ただ、いるなら見たいですよね。
――宇宙人に遭遇したといった経験はないんですね。
宇賀那:UFOを見たとかも全くありません。宇宙人に遭遇してみたいですよね。
ちょっと話が逸れますが、僕は柴田剛さんの映画『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』(2016年)が大好きです。この映画では本当に宇宙人を探しに行くので、フィクションであり、ドキュメンタリーでもあるんですよ。映画の中では、カメラが上がったり下がったりするティルトアップという撮影方法をずっと使っています。柴田さんは「宇宙人を撮るためには、やっぱりティルトだ」と言っていました。僕もそういうことをやって、いつか宇宙人が映り込んだらおもしろいなと個人的には思っています。むしろ、本物の宇宙人を撮りに宇宙に行きたいですね。
――宇宙人がいて今回の映画みたいな展開になったら、人間と宇宙人は仲良くやっていけると思いますか? それとも、対立すると思いますか?
宇賀那:僕の最近のテーマは「異種との共存」です。『異物 -完全版-』にはタコ系のエイリアンが、『悪魔がはらわたでいけにえで私』にはグレイ系のエイリアンがそれぞれ出てきます。今回はまた違った形のエイリアンですね。そういうエイリアンと人間の間で最初は対立する部分があっても、最終的には上手くやっていけるんじゃないのかなと思っています。
――逆に異種だからこそ上手くいくことはありそうですよね。
宇賀那:今回のテーマでもあるんですけど、仲の良い人同士ほど、心配されたりするので、意外と本音を話せないじゃないですか? 初見の人だから話せることがあるので、宇宙人だから話せることも絶対にある気がしていますし、そうであればいいなと思っています。
――監督の前向きなお話を聞けてよかったです。最後に、映画を観に来られる方々へのメッセージをお願いします。
宇賀那:ポップな映画でもあるんですが、それと同時にシニカルなメッセージも逆にこういうテーマだからこそ入れられました。幅広い年代の方々に観に来てほしいなと思います。
あとは、映画は好きも嫌いも言っていただいて初めて存在価値があるような気がします。是非劇場でご覧になって、好き嫌いも含めて、周りの方々に映画のことを伝えくださったら嬉しいですね。
(文=本間秀明)
『みーんな、宇宙人。』
2024年6月7日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、
池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿 他 全国ロードショー!
監督・脚本:宇賀那健一
出演:兵頭功海、菊地姫奈、西垣匠、三原羽衣、草川拓弥、YU
製作:CAELUM
制作:VANDALISM
配給:エクストリーム
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