男の首を引き抜きしゃぶった「山童(やまわろ)の怪異」! 異形の民“低身長の人食い種族”か

――鳥取県の山童(やまわろ)というと、水木しげるロードのアレですか?

(神ノ國ヲ) 戯画化された堺港のブロンズ像ですよね。鳥取県のあたりは、古来より伯耆国(ほうきのくに)と呼ばれていました。柳田國男の親友にして元祖オカルトライター、岡田建文によれば「日本海に面した中腹は、蓊鬱として大樹が密生して居り、その間に、大神山神社や大山寺があり、古来天狗や妖魅や大蛇などの居るところとして畏怖された」土地です。

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水木しげるロードに設置されている「山童」のブロンズ像。画像は「Wikipedia」より

――そんな土地で何があったのでしょうか?

(神ノ國ヲ) 昔から林業や製鉄用の炭焼きが盛んな土地です。たとえば中国地方は「たたら製鉄」で有名です。石見と出雲(島根)、安芸(広島)、伯耆(鳥取)では11~16世紀頃の遺跡を確認できます。

 明治中頃、伯耆の国大山のふもとの村に彌六という男がいました。伐採した木を谷間から運んで製鉄用の炭とするのが仕事で、毎日一人で山に通っていた。

 ある日、仕事をしている彌六の前に、ボロ屑と葉で腰を隠しただけの眼光の鋭い12~13歳の子供が現れた。しかし、近づいてくると人か猿か判別できない異形の怪物だった。そして「仕事を手伝うから、毎日弁当の飯を半分わけてほしい」という。

 一人で仕事をする彌六は、これはおもしろいと思って、何ができるか試してみると、似たような怪物がさらに現れて、谷間から崖上まで十数メートル毎に並び、あっという間に三十本の丸太を投げ渡して運んでしまった。

――丸太を投げて……!?

(神ノ國ヲ) 製炭用ですから長さ2m重さ35㎏くらいです。とにかく、これは仕事が楽になると驚く彌六に、怪物は仕事を手伝う条件を出す。「我らについては誰にも何も言うな、漏らさば、首を引き抜き、体を八つ裂き、骨をしゃぶる」と。彌六は天狗の眷属だろうと思うも助かるので、怪物と一緒に仕事をした。

 彌六が伐採し、丸太が溜まると、いつのまにか現れた怪物が谷の上へと丸太を運ぶ。弁当を開くと、きっちり半分だけ米が消えている。仕事は助かるが腹が減るので、彌六は帰宅しては大飯を食らい、朝にはもっと米を詰めろという。妻は仕事の業績は好調ながらも、夫の不審さに、山小屋での不倫を疑い、ついに彌六を問い詰める。

 彌六は疑心暗鬼の妻をなだめるため、つい事情を話して約束を破ってしまう。「それは山童です」と、妻は祖父から聞いた確認方法を試して祓おう、と言う。女が弁当から一口食べて、その後、メシを詰めると山童なら手をつけない、特定すれば逃げる方法もある、と。

 翌日、そのように妻と弁当を仕掛けて、出かけた彌六は深夜になっても帰って来なかった。朝になり、村による山狩りが行われると、無残にも彌六は首から引き抜かれ、体は飛び散った肉片と骨となって食い殺されていた。そして、弁当はそのままだった。

 山童は、よほど腹が立ったのか、丸太をすべて釘のように地面に打ち込んでおり、地面と丸太の切り口は平らであった。妻も村人も震え上がったという。

――その怪物の正体は分かっているのですか?

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『幻の漂泊民・サンカ』(文藝春秋)

(神ノ國ヲ) 実は九州では「秋の彼岸に河童が山に入って山童となる、春の彼岸に川に戻ってくる」と言われています。各地に残る「山男/山人」伝説、中国の伝承「山操」とも似ています。または天狗にも重なる「難破、漂着した西洋人が山間部で暮らしていた」説もあります。また「予言獣アマビエ」との共通点を指摘する研究者もいます。民俗学者・湯本豪一いわく、肥後国天草郡の山中に3本足の「山童(やまわらわ)」が現れて豊作と疫病について予言した、というケースです。

 本来、怪異とは曖昧模糊としたものですから、その正体は判りません。しかし、よくよく考えてみると、まず「彌六と山童」は、どうにも独特なのです。まず九州ではなく、鳥取の事件です。さらに、この「山童」は「女を嫌う」という山林系の怪異の特徴を備えています。同時に「河童」と同じように人間の生活に隣り合わせで、ときには助力となる存在です。しかし、河童は「女好き」ですし、ときに「河童の子」が生まれてもいます。

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――すると、「山童」は河童ではないと?

(神ノ國ヲ) 1950年代に、丸山学『山童伝承の分布』『山童傳承の展開 : 山岳信仰への一つの接近』、2013年に、椎名愼太郎『河童の姿を追って : 民俗伝承に見る庶民の心』という研究があります。「河童」伝説の核として河川敷に住み、当時差別を受けた「川の民」を想定するように、「山の民」から「山童」を考察することも可能です。

 しかし、鳥取で彌六を食い殺した山童は、伝説として広がった河童でも山男でもない、また芥川龍之介が描くユーモラスで親しみやすい存在でもありません。何か別物ではないのか。1712年、最初の「河童」記録である寺島良安『和漢三才図会』では、「山童」は川太郎(河童)と同類で「人の舌を好んで食し、尻から血を吸う怪物」です。彌六を食い殺した「山童」に記述が合致するのは偶然でしょうか。仮説に過ぎませんが、日本には低身長で人肉も食す「山の民」がいたのではないか。しかし差別されて歴史の闇の中に葬り去られた可能性は否めません。

 

※当記事は2021年の記事を再編集して掲載しています。

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