生きるために“腕を切り落とした男”の壮絶なサバイバル記録

画像は「YouTube」より

 落下してしきた岩と壁の間に腕が挟まって動けなくなる絶望的な状況の中、自らナイフで腕を切断してサバイバルした登山家がいる――。映画化もされたこの遭難事故の渦中で彼は何を考えていたのか。

■5日間の遭難中に右腕の切断を決意

 大企業でエンジニアとして働いていたアーロン・ラルストンは2002年に仕事を辞め、山登りと世界中を探索する情熱を追い求めることにした。

 2003年4月26日、当時27歳の彼はユタ州ウェイン郡のブルージョン渓谷の単独下山に挑み、低地を進んでいた時に突然落ちてきた岩と渓谷の壁の間に右腕が挟まり、まったく身動きできなくなった。

 助けを呼ぼうにも周囲には誰一人おらず、持参していた食料と水を僅かずつ摂取しながら誰かがやって来るのを待つしかなかった。水と食糧が尽きると最終的には水分補給のために自分の尿を飲むしかなかった。

 自分の死を意識したラルストンは自分の名前、生年月日、推定死亡日を渓谷の砂岩の壁に刻み、家族への最後の別れをビデオで撮影していた。

 極度の脱水症状、せん妄、疲労にもかかわらず、彼は6日目に、自分の運命を受け入れるのではなく、自分を救うために思い切った行動を取ることを決意したのだ。

 ラルストンは、自分の腕が腐り始めていることに気づき、今しかないと悟ったとリアリティ番組チャンネル「TLC」に説明する。ナイフが右手の親指に偶然触れると。皮膚の一部が簡単に剥がれたという。

「それで好奇心が湧いて、あちこちを突っつき始め、ナイフで親指に突き刺しました。温かいバターの塊にナイフを滑り込ませるように、ナイフがすっと入りました」(ラルストン)

 すでに腐敗が始まっていた右腕はナイフで切っても痛みを感じることなかったが、まだ頑丈な骨はナイフでは歯が立たなかった。そこで勢いよく体勢を動かせばテコの原理で腕の骨を折ることができるのではないかと考えたのだった。

「反対側の壁に体を打ちつけ、岩の裏側をつかみ、壁の半分ほどのところまで足を伸ばすことができました。岩の裏側をつかみ、体を揺らして、ついに一番下の骨(尺骨)が折れました」(ラルストン)

 前腕部には2本の骨があるが、次の試みで上の骨(橈骨)も折ることができた。骨が折れる際には“ポキン(pow)”という音が周囲に響いたという。

画像は「Amazon」より

 その後、ナイフで自分の腕の切断手術を開始し、筋肉、動脈、腱、神経を断ち切っていったのだ。この間、腕全体が焼けるように熱くなり、火傷のような痛みに襲われたという。

 そして右腕が完全に切り離された瞬間は「人生で最も幸せな瞬間」であったと彼は振り返る。

「私にとってこれ以上に感動的な経験は二度とないでしょう。ここから脱出するチャンスを与えられたことは、まさに最高の気分でした。峡谷を見下ろしながら、これから素晴らしい旅が待っていることを知りました」(ラルストン)

 ラルストンはその後に岩穴から脱出し、20メートルの壁を左腕だけで懸垂しながら下降してブルージョン渓谷から脱出し、ほどなくしてほか登山家と遭遇した。

 病院に急送されたラルストンだったが、挟まれていた間に体重が18キロ減少し、血液の25%を失っていた。

 公園当局はその後、ウインチと油圧ジャッキを装備した13人の人員を動員して、岩を動かし、ラルストンの切断された手と前腕を回収し、火葬して彼に渡したのだった。

「TLC」のインタビューのため、彼は28歳の誕生日にカメラクルーと共に事件現場に戻り、そこに右腕の遺灰を撒いたのである。予期せぬ遭難事故は右腕を失う悲劇となったが、まさに彼の人生の転機となる出来事であったことは間違いない。

参考:「LADbible」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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