世界中で語り継がれる呪いの視線「邪視」の恐怖… 古代メソポタミアから続く“魔眼”の謎と、世界各地のユニークな対抗策とは?

「なんだか視線を感じる…」「あの人と会ってから、どうもツイてない…」
誰でも一度や二度は、そのような経験があるのではないでしょうか。それは単なる気のせいか、それとも…?世界には古来より、悪意を込めた視線が災いをもたらすと信じる「邪視(じゃし)」という概念が存在します。英語では「イーヴィルアイ(evil eye)」、日本語では「邪眼(じゃがん)」や「魔眼(まがん)」とも呼ばれるこの不思議な力。今回は、このミステリアスな「呪いの視線」の世界をご紹介しましょう。
邪視とは?世界を覆う「見えざる脅威」
邪視とは、読んで字のごとく「邪(よこしま)な視線」のことです。悪意や嫉妬を込めて相手を睨みつけることで、その対象者に病気や不運、時には死に至るほどの呪いをかける魔力と信じられています。驚くべきことに、この信仰は特定の地域や文化に限定されるものではなく、地中海沿岸から中東、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、さらにはラテンアメリカに至るまで、世界の広範囲に分布しているのです。
約5000年前の古代メソポタミア(現在のイラク)にその起源を持つとされる邪視信仰。シュメール文明の楔形文字にも「人々を苦しめる目」に関する記述が見られ、目玉をかたどったお守りも発掘されています。古代ギリシャの哲学者プラトンやヘシオドス、古代ローマの博物学者プリニウスといった名だたる賢人たちも、この「呪いの視線」について言及していることから、いかに古くから人々がその存在を意識し、恐れてきたかがうかがえます。
興味深いのは、文化によって邪視の捉え方や恐れられる対象が微妙に異なる点です。例えば、中東や南ヨーロッパの一部では、美しい青い瞳を持つ人々が、意図的であれ無意識であれ、邪視の力で他者に呪いをかけてしまうと恐れられていました。これは、その地域では青い瞳が比較的珍しかったことと関係があるのかもしれません。
あなたも持っているかも?世界各地の邪視よけお守り大図鑑!
さて、これほどまでに恐れられた邪視。人々がただ黙ってその脅威に甘んじていたわけではありません。世界各地には、この「見えざる呪い」から身を守るためのユニークで魅力的なお守りや呪術が数多く存在するのです。さながら、邪視よけアイテムの世界博覧会といったところでしょうか。
■定番中の定番!青い目玉「ナザール・ボンジュウ」

トルコのお土産屋さんなどで必ず目にする、青いガラスに目玉が描かれたお守り「ナザール・ボンジュウ」。これは邪視よけの代表格で、家や車に飾られたり、アクセサリーとして身につけられたりします。この「見つめ返す目」が、邪視の悪意を跳ね返してくれると信じられているのです。
■神秘のハンドパワー「ハムサ(ファーティマの手)」

中東や北アフリカで広く用いられる、手の形をしたお守り「ハムサ」。イスラム教では預言者ムハンマドの娘ファーティマの手、ユダヤ教やキリスト教文化圏では聖母マリアの手などとも呼ばれ、邪視だけでなく様々な災厄から持ち主を守るとされています。5本の指がそれぞれ特別な意味を持つとも言われているのです。
■イタリア伊達男の秘密兵器?「コルナ」と「マノ・フィコ」

情熱の国イタリアでは、邪視を払うための独特なハンドサインがあります。「コルナ」は人差し指と小指を立て、他の指を握り込むジェスチャーで、角を象徴し魔を祓います。一方、「マノ・フィコ」は親指を人差し指と中指の間に挟んで握り込む形で、これは古代ローマでは男性器を象徴し、強力な魔除けとされました。驚くべきことに、現代で侮辱的な意味で使われる「ファックサイン」も、元々は古代ローマで邪視よけのサインだったという説もあるのですから、文化とは実に興味深いものです。
■古代ローマの最終兵器「ファリックチャーム」
古代ローマでは、男性器をかたどった「ファリックチャーム」が邪視よけに絶大な効果があると信じられていました。ペンダントや指輪として身につけられたり、建物の石彫りやモザイク、風鈴などにも用いられたといいます。一説には、この露骨な性的シンボルが、邪視を放つ者の精神を乱し、呪いをかける集中力を削ぐと考えられたようです。日本の縄文時代の遺跡から出土する石棒も、同様の呪術的な意味合いがあったのかもしれません。
その他にも色々!世界のユニークな邪視よけ
船の目:地中海沿岸の漁船の舳先に描かれた大きな目は、航海の安全と邪視からの保護を願うものです。
植物の力:イランではヘンルーダという植物が、ブラジルではトウガラシやサンスベリアなどが邪視よけに効果があるとされています。
唾を吐く:古代ギリシャ・ローマでは、衣服のひだに唾を吐きかけることで邪視を避ける風習がありました。
鏡:ブラジルでは、家の玄関の外や内側に鏡を置くことで邪視を跳ね返します。
赤いリボン:南米の一部では、赤ちゃんや動物、物に赤いリボンを結びつけ、邪視の視線をリボンに引きつけて守ります。
卵を使った儀式:メキシコや中南米では、鶏の生卵を体の周りで転がして邪視の力を吸収させ、その卵を割って状態を見るという治療法があります。

邪視はなぜ信じられるのか?現代社会に残る「呪いの視線」
科学技術が飛躍的に進歩した現代。それでもなお邪視の信仰は世界各地で生き続けています。トルコ土産のナザール・ボンジュウは人気のファッションアイテムですし、「あの人から邪視を送られた」なんて表現は、怒りや嫌悪感を込めた日常会話として使われることもあります。
なぜ人は、目に見えない「呪いの視線」を信じ、恐れ、そして対抗しようとするのでしょうか。
一説には、邪視とは「妬み」の感情が具現化したものとも言われています。誰かの成功や幸福を妬む強い感情が、視線を通して相手に悪影響を与えるという考え方です。確かに、人間関係において嫉妬や悪意は、時に目に見えないプレッシャーやストレスとなって相手を苦しめることがあります。邪視信仰は、そうした人間の負の感情が持つ力を、ある種象徴的に捉えたものなのかもしれません。
また、予期せぬ不幸や病気に見舞われた際、その原因を具体的な「何か」に帰属させたいという人間の心理も関係しているでしょう。「誰かの邪視のせいだ」と考えることで、不可解な出来事に対する説明を見出し、心の安定を得ようとするのかもしれません。
日本における「邪視」
日本には、海外の「イーヴィルアイ」と全く同じ概念が古くからあったわけではありませんが、博物学者の南方熊楠が「邪視」という訳語を用いてこの概念を紹介したことで知られるようになりました。
しかし、日本にも「嫉妬の念が生き霊となって相手を苦しめる」といった伝承や、特定の人が持つ「眼力」が良くも悪くも影響を与えるといった考え方は存在します。もしかしたら、形は違えど、視線が持つ不思議な力に対する畏敬の念は、人類共通のものなのかもしれません。
あなたの隣にも「邪視」は潜んでいる?

邪視。それは単なる迷信か、それとも人間の深層心理に根ざした普遍的な何かか。この記事をお読みになり、皆様の周りにある「視線」について、少しだけ意識が変わったかもしれません。
次に誰かと目が合った時、あるいは強烈な視線を感じた時、ふとこの記事を思い出してみてください。もしかしたら、あなたのすぐそばにも、古代から続く「呪いの視線」が、静かに息づいているのかもしれないのですから。
そして、もし心配なら、こっそりマノ・フィコのサインを試してみるのも一興かもしれません。ただし、その意味はくれぐれもご内密に…。
参考:Wikipedia、ほか
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