コックリさんよりも怖い“キューピットさま”で本当にあった怖い話!右頬が裂けた少女が…

※当記事は2020年の記事を再編集して掲載しています。

・川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。

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『降霊』

 今から40年ほど前のことになるだろうか。多くの学校で禁止されたコックリさんの後続として、類似の降霊占いが人気を集めた。

 大人がやらなかったわけではないが、もっとも熱心に遊んだのは小中学生で、私自身も、中学校のとき、コックリさん擬きの幾つかの占いに興じたものだ。

 その際、仲間のひとりが突然、教室から走り出たかと思ったら、二階の窓から昇降口の庇に飛び降りるといった奇行を示したことがあった。

 しかし、あれはオカルトの領域に触れるような出来事ではなかったと思う。

 神経が繊細な少女の中には、自己暗示にかかりやすい者が少なからずいる。奇行に走った子も、非常に精神がデリケートな、物に感じやすいタイプだった。

 コックリさんなどが大流行した昭和のあの頃、占いによって神秘的な存在が本当に降臨してきて、さらには自分に憑依した……と、思い込んだ結果、自分で自分に催眠術をかけけたかの如き精神状態に陥り、不思議な行動に走ってしまった例は、枚挙にいとまがなかったものだ。

 幸い、私が居合わせたケースでは、大事には至らなかった。だから、ごく淡い思い出に留まっている。その占いの正しい名称も、もう忘れてしまったほどだ。

 コックリさんに似た何か、だったことは確かなのだけれど、それがエンゼルさまだったか星の王子さまだったかというと、憶えていない。

 キューピットさまというものも、ポピュラーだった。

 東京の下町で生まれ育った多恵さんは、私より何歳かお若い方で、キューピットさまをした経験が、たった一度だけあるのだという。

 その日、小学5年生の多恵さんたち仲良し3人組は、放課後の教室でキューピットさまをする約束をしていた。

 スイッチを切られたラジエーターの熱が次第に冷めていく、冬の黄昏時だった。

 教室の真ん中で机を囲み、ハートと矢、「あ」から「ん」までの平仮名、「0」から「9」までの数字、それから「YES」と「NO」を白い紙に記して、3人で1本の鉛筆にそれぞれの人差し指を絡めたら準備完了だ。

「キューピットさま、キューピットさま、おいでください。いらっしゃいましたら、ハートの中に大きな輪を描いてください」

 ……と、唱えたのは多恵さんの親友、マキコちゃんだった。

 今日という日にキューピットさまをすることにしたのは、そもそも、マキコちゃん、ミサキちゃん、多恵さんの3人がゴミ捨て当番になっていたので、誰からも理由を詮索されずに教室に残ることが出来たからだった。

 本当は、もう1人、ゴミ捨て当番の男子がいたけれど、多恵さんたちが「私たちがやるから帰っていいよ」と言ったら、喜んで教室を飛び出していった。

 うまくいった。3人だけでキューピットさまをやりたいと思っていたのだ。

 マキコちゃんがお定まりのセリフを唱えると、少しも待たずに、鉛筆が滑らかに輪を描いた。キューピットさまが降霊した証だ。さっそく、まずは、それぞれが片想いしている男子の気持ちについて、マキコちゃん、ミサキちゃん、多恵さんの順で質問した。

 恋愛相談に次いで、しばらくは、未来の託宣をありがたく伺った。

 好きなアイドルのコンサートの抽選チケットがあたるか否か。どの中学へ進学することになるのか。将来は何になるのか……。

 思いつく限りを順々に質問していったが、30分もすると、訊くことがなくなってしまった。

「もうやめる? どうする?」

 3人は鉛筆に指を絡めたまま、紙に描いたハートの上に顔を寄せ合い、ヒソヒソと相談した。

「そういえば、キューピットさまって誰なんだろうね?」

「お稲荷さんじゃないの?」

「それはコックリさんでしょう?」

「おねえちゃんが、コックリさんなんかで降りてくるのは低級霊だって言ってたよ」

「テイキュウレイって何?」

 そんな会話を、なぜか声を低めて交わしているうち、誰からともなく、「じゃあ、直接、訊いてみよう」ということになった。

「キューピットさまは、女ですか、男ですか? 女だったらYESにお進みください」

 マキコちゃんがこう訊ねたところ、鉛筆がするすると動いて、「お」「ん」「な」と、次々に文字を指したのである。

 ……一つわかれば、他のことも知りたくなってくるものだ。

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「キューピットさまは、人間でしたか?」

――YES

「わあ! だったら幽霊ってことかな? 次は多恵ちゃんが質問しなよ」

「わかった。えーと……。キューピットさまは、何歳でお亡くなりになったんですか?」

――「1」「4」

「14歳で死んじゃったなんて、かわいそう! 次はマキコちゃんの番だよ」

「それじゃあ、なんで死んじゃったんですか?」

――「く」「う」「し」「う」

「くうしう?」

「あっ! 空襲のことじゃない? 戦争のとき、この辺は焼け野原になって、いっぱい人が死んだっていうから……」

「ああ、多恵ちゃんの家は代々この辺に住んでるんだもん、詳しいよね。次はミサキちゃんの番だよ?」

「ええ、私? もういいでしょ? なんか、だんだん怖くなってきちゃった……」

 ミサキちゃんの姉は14歳で、このキューピットさまと同い年だ。そのせいで、幽霊の存在がにわかに現実味を帯びて感じられてきたのかもしれない。

 多恵さんも、少しばかり怖じ気づいてきた。

 マキコちゃんは忘れてしまったようだが、5年生になってすぐの社会科見学で区の郷土資料館に行ったときに、第二次大戦の東京下町大空襲のときに焼けた服や家財道具といった生々しい資料を見たり、先生方や区の職員の方から当時の悲惨な話を聞かされたりした。

 それに、マキコちゃんに指摘された通りで、大昔からここ下町で暮らしてきた家であるせいか、空襲で死んだ親戚の話も再三、耳にしている。

 さらにまた、夕暮れが迫り、気づけば、もうずいぶん窓の外が陰っていて、この後、暗い道を帰ることを思うと、ゾッとした。

 そのうち、マキコちゃんが「何よ、2人とも!」と、痺れを切らした。

「しょうがないなぁ。本当に信じちゃってるわけ? 私は多恵ちゃんが鉛筆を動かしてるんだと思ってたんだけど?」

「違うよ! 私は動かしてない!」

 多恵さんが否定すると、「私もやってないよ!」と、ミサキちゃんも急いで言った。

 マキコちゃんは、呆れたような溜息をひとつ吐いた。

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「はい、はい。なら、私が訊くからさ。最後の質問ね! ……キューピットさまは、私たちが呼ぶ前は、いったいどこにいたんですか?

――「さ」「む」「い」「く」「ら」「い」

「寒い、暗い? 不気味だなぁ! ねえ、多恵ちゃんたち、本当に鉛筆を動かしてないんだよね?」

――「く」「る」「し」「い」

 誰も何にも訊いていないのに、勝手に鉛筆が素早く動いて文字を指し示しだしたので、3人は揃って悲鳴をあげた。

――「し」「ね」

「キューピットさま、キューピットさま、お戻りください!」

 マキコちゃんが叫んだ。多恵さんとミサキさんも大声で復唱したのだが。

――「し」「ね」「し」「ね」「し」「ね」「し」「ね」「し」「ね」「し」「ね」

 多恵さんたちの人差し指を引き千切らんばかりの勢いと速度で、鉛筆が「し」と「ね」を行ったり来たりしはじめた。

 たちまち、「し」と「ね」のところの紙が破けて、黒い穴が開いた。

 ミサキちゃんが叫んだ。

「指が離れない! 痛い、痛い! 助けて!」

 多恵さんも、慌てて鉛筆を振りほどこうとした。しかし、かえって指が鉛筆にガッチリと絡みついてしまい、恐慌をきたした。

「怖いよぉ! もうヤダ!」

「せーので、机を突き飛ばそう!」

 マキコちゃんだった。

 押しが強すぎるところがあるけれど、こういうときは頼もしいかぎりだ。本人だって、見れば、目に大粒の涙を浮かべているのに。

「せーの!」

 マキコちゃんの掛け声で、多恵さんたちは、囲んでいた机から思い切って飛び離れた。

 鉛筆が、パタリと倒れた。

 みんなの指が離れたのだ。

 途端に、掌で壁を叩くような音が、そこらじゅうから聞こえはじめた。

 大勢の人々が教室を取り囲んで、外から壁や窓を叩いている。

 そうとしか思えない気配と音が溢れているが、窓の外に誰の姿が見えるでもなかった。

 第一、ここは3階なのだ……。

 3人は教室から逃げ出そうとした。

 しかし教室の引き戸は戸袋に接着されてしまったかのように、こゆるぎもしなかった。

 ガタガタと揺することすら出来ない。尋常ではない閉まり方だ。

 ……3人で泣きながら、キューピットさまとして呼び出してしまった魂に「ごめんなさい」「許してください」と必死に謝った。

 すると、5分か10分か、だいぶ経って、音が鳴りやみ、引き戸が開いた。

 静かになってみると、キューピットさまの紙と鉛筆があって、椅子が3脚、倒れているだけで、教室にはどこにも変わったところは見受けられなかった。

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 さっきは日没が迫ったと感じていた。なのに、あらためて時計を見てみたら、まだ4時にもなっていなかった。校舎や校庭には、先生や生徒が何人も残っていて、遠くから声も聞こえてくるのだった。

 叫んだり泣き喚いたり、壁を掌が叩く音を抜きにしても、3人であれだけ大騒ぎしていたのに、誰も駆けつけてこなかったのも奇妙なことだと思われた。

 ややあって、気を取り直して、教室のゴミを焼却炉へ捨てに行くことにした。

 ゴミを三等分していると、ちょうど雨が降りだした。

 いつもなら、1階の理科室の前を通って、校舎の裏口から焼却炉へ向かう。

 焼却炉は裏口を出るとすぐのところにあったから、昇降口から出て校舎の周りを回り込んでいくよりも、その方が近道なのだ。

 雨が降っていれば尚のこと、1階の廊下を通る方が、濡れずに済むので合理的だった。

 でも、このときに限り、多恵さんは一刻も早く外の空気を吸いたくてたまらなかった。

 そこで、1階に下りると、「私は外から行く」と2人に告げた。

 マキコちゃんとミサキちゃんは、いつものように1階の廊下から裏口へ向かった。

 雨に濡れながら早足で焼却炉に向かい、ほどなく到着した。

 先に着いているものと予想していた2人の姿がなかったので、すでにゴミを捨てて校舎に引き揚げてしまったのだと思い、急いでゴミを焼却炉に放り込んでいると、裏口が開いて、顔を血塗れにした女の子が出てきた。

 右の頬が大きく裂け、鮮血が噴き出している。

 正気を失って血走った眼と、目が合った。

 多恵さんは泡を喰って逃げた。

 無我夢中で校庭を横切り、校門を目指して走った。

 どういうわけか、さっきまで何人か生徒がいたはずと思うのに、前後左右、血塗れの少女と自分以外、人っ子ひとり見当たらない。

 無人の校庭を果てしなく広く感じた。校門は遠く、行きつく前に何かにつまづいて、激しく転んでしまった。

 さっきの女の子が追い駆けてきているのでは、と、地面に転がったまま後ろを向くと、校庭一面に筵が敷かれており、そこに全身いたるところから血を流したり、顔が焼けただれたり、真っ黒焦げの棒切れのようになったりした、生死も定かではない惨たらしいありさまになった人々が数え切れないほど転がされていた。

 気づくと、多恵さんは校庭でひとり横たわって雨に打たれていた。

 あいかわらず周囲には誰もいなかったけれど、辺りを埋め尽くしていた無惨な姿の人たちは消えていた。

 すぐにも家に帰りたかった。だが、鞄を置いてきてしまったし、マキコちゃんとミサキちゃんのこ

 とも気になったので、濡れそぼち、芯まで冷え切った体を引き摺って、教室に戻った。

 すると、ミサキちゃんがマキコちゃんの頬に絆創膏を貼っているところだった。

 多恵さんを見ると、急にマキコちゃんが声を放って泣きだした。

 何があったのか訊ねると、ミサキちゃんと一階の廊下を歩いていたら、どこからともなくガラスの破片が飛んできて、顔に当たったのだという。

 まだまだガラスが飛んできそうで、裏口から外に飛び出したら、焼却炉の前に多恵さんがいて、こっちを振り向いた――。

「でも、多恵ちゃんは、大声で悲鳴をあげて逃げてっちゃったんだよ! 私の顔、そんなに酷いことになってるの? 怖い! 怖いよ!」

「ううん!」と、多恵さんは否定した。「絆創膏で隠れるくらいの傷だよね?」

 ミサキちゃんが頷いた。

「うん。浅い切り傷だって、さっきからずっとマキコちゃんに言ってるんだけど、信じてもらえなくて困ってたの」

 ミサキちゃんによれば、マキコちゃんの顔を傷つけたのは、理科室で使っているビーカーが割れたもののようだとのことだ。

 確かに理科室の前を通っているときではあったが、理科室の戸は閉まっていて、投げた者の姿も見なかった。だから、なぜ飛んできたのかはわからない。

 とにかく、ピュンピュンと飛んできたうちの一片が、運悪くマキコちゃんの顔に当たってしまった……ということらしかった。

 怪我の程度はまったく異なるが、切り傷の位置が焼却炉の前にいたときに現れた少女のそれと同じだった。

 多恵さんは、あの少女のことと、校庭で見た景色について、2人に打ち明けた。

 以来、多恵さんは、キューピットさまは無論のこと、コックリさんに似た降霊占いを避けてきた。マキコちゃんとミサキちゃんも懲りてしまったようで、彼女が知る限り、二度とやろうとしなかった。

 マキコちゃんの頬の切り傷は一週間ほどで癒えて、幸い痕も残らなかった。

 怪我の場所が符合することから、もしかするとキューピットさまの呪いがかかってマキコちゃんは大変なことになるのではないかと密かに心配していた多恵さんは、胸を撫でおろしたそうである。

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 今回、私は、多恵さんたちが通っていた公立小学校の沿革などを調べてみた。

 そうしたところ、大正12年9月1日には関東大震災により校舎が全壊・焼失、昭和20年3年9日にも大空襲に遭い校舎が焼け落ちていることがわかった。

 ただし、関東大震災の日には始業式があり、午前中に式が終了して、皆下校していたため、生徒児童の被害は少なかった。

 第二次大戦の大空襲の折も、小学校の生徒は全員、学童疎開していた。とはいえ、地元に残った別の小中学校の生徒たちが被災して命を落としたそうだから、その中に14歳の少女がいたとしても何ら不思議はない。

 また、都民の空襲体験を収録した『東京大空襲・戦災誌 第一巻』(財団法人 東京空襲を記録する会刊)によれば、この界隈では空襲後、公園や小学校の校庭などに遺体を集めたのだという。だから、多恵さんが目撃した無数の亡骸は、過去の状景の再現であったかもしれないと思った次第だ。

文=川奈まり子

東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。
ツイッター:@MarikoKawana

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