【心霊スキャンダル】裸体×エクトプラズム×雑誌の切り抜き… 霊媒エヴァ・カリエールの背徳的な降霊会、その全貌

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画像は「Wikipedia」より

 20世紀初頭、第一次世界大戦の爪痕が社会に暗い影を落とす中、ヨーロッパでは死者との交信を求めるスピリチュアリズム(心霊主義)が熱狂的なブームを迎えていました。その中心で一躍スターダムにのし上がったのが、エヴァ・カリエール(Eva Carrière)、通称「エヴァ・C」です。彼女は口や体から「エクトプラズム」と呼ばれる神秘的な物質を排出し、霊を物質化させるという驚異的な現象で、当時の知識人や大衆を魅了しました。

 しかし、その降霊会は科学的探求の仮面の下で、巧妙なトリックとエロティックな演出に満ちたスキャンダラスなショーでもありました。本記事では、エヴァ・カリエールの生涯と彼女が巻き起こした現象を解説します。

1. 霊媒エヴァ・カリエールの誕生

 エヴァ・カリエール(本名:マルテ・ベロー、1886-1943)は、フランスの軍人将校の娘として生まれました。1904年、婚約者の死をきっかけに霊能力に目覚めたとされ、1905年からアルジェリアで降霊会を始めます。

 彼女の降霊会で呼び出される代表的な霊は、300年前のヒンドゥー教バラモン「ビエン・ボア(Bien Boa)」でした。セッションの参加者は、この霊が物質化し、呼吸をし、動き回る姿を目撃したと証言しました。

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精霊ビエン・ボアとされる写真 By Charles Richet – Traité de métapsychique (Alcan, 1922), Public Domain, Link

 しかし、この最初の活動は、1906年に新聞によってトリックが暴露される形で幕を閉じます。ビエン・ボアを演じていたのは、雇われたアラブ人の御者アレスキであり、彼は隠し扉から登場していたと証言。エヴァ自身も関与を認めることとなり、彼女の信頼は大きく失墜しました。

 この失敗の後、彼女はパリに移り住み、名前を「エヴァ・カリエール」と変え、心機一転、新たなキャリアをスタートさせたのです。

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エヴァ・カリエールのエクトプラズムとされる写真 撮影者はアルベルト・フォン・シュレンク=ノッチング(1912年)  パブリックドメイン 出典

2. エクトプラズムと降霊会の実態

 エヴァの名声を確立したのは、「エクトプラズム」と呼ばれる現象でした。暗闇で行われる降霊会で、彼女はトランス状態に入り、口や鼻、時には胸からゼリー状や布状の物質を排出しました。このエクトプラズムが徐々に形を変え、人間の顔や手足といった霊の一部を物質化させるとされました。

 この現象に魅了された一人が、著名な生理学者でノーベル賞受賞者でもあったシャルル・リシェです。彼はエヴァの能力を本物だと信じ、その研究に情熱を注ぎました。

 また、ドイツの精神科医アルベルト・フォン・シュレンク=ノッツィング男爵は、1909年から4年間にわたり彼女を詳細に調査し、数百枚に及ぶ写真を撮影しました。これらの記録は、1923年に『Phenomena of Materialisation(物質化現象)』として出版され、当時の心霊研究における非常に重要な資料となりました。この本に収められた、エクトプラズムから不気味な顔が浮かび上がる写真は、スピリチュアリズムの象徴として広く知られることになります。

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By Albert von Schrenck-Notzing, *Phenomena of Materialisation* (1920), Public Domain Source

3. 降霊会に潜むエロティシズム

 エヴァ・カリエールの降霊会が他の霊媒と一線を画していたのは、その演出に色濃く含まれていたエロティックな要素です。

身体検査:降霊会の前には、トリック用の道具を隠し持っていないことを証明するため、助手のジュリエット・ビッソン(彼女とは同性愛関係にあったと指摘されている)による身体検査が行われました。この検査には膣内のチェックなども含まれ、その様子が参加者に公開されることで、セッションに扇情的な雰囲気を与えました。

裸でのパフォーマンス:エヴァはしばしば衣服を脱ぎ、裸体でセッションを行うことがありました。これはエクトプラズムが彼女の体から直接現れる様子を示すためとされましたが、暗闇の中で参加者と性的な接触を持つこともあったと報告されています。

性的な象徴:撮影されたエクトプラズムの中には、男性器の形をしたものも含まれており、彼女のパフォーマンスが多分に性的な側面を持っていたことを示唆しています。

 これらの演出は、霊媒の身体が霊界と現世をつなぐ神聖な「媒体」であるというスピリチュアリズムの思想を背景に、参加者の感情を高揚させるための戦略だった可能性があります。しかし、同時に彼女の活動をスキャンダラスなものとし、後の批判の的となりました。

4. 暴かれたトリックと科学的検証

 当初はコナン・ドイルなどの著名人からも支持を受けたエヴァでしたが、懐疑的な研究者による調査が進むにつれ、そのトリックは次々と暴かれていきました。

噛んだ紙と雑誌の切り抜き:1920年、ロンドンの心霊研究協会(SPR)は、エヴァのエクトプラズムが噛んだ紙や布であることを突き止めました。さらに、物質化されたとされる霊の顔は、フランスの雑誌『Le Miroir』から切り抜かれた写真であることが判明しました。写真には、当時のアメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソンやフランス大統領レイモン・ポアンカレの顔も使われており、写真の折り目や、裏面に印刷された「Le Miroir」の文字が決定的な証拠となりました。

巧妙な隠蔽工作:エヴァはこれらの切り抜きに偽の髭をつけたり、髪型を変えたりして偽装していましたが、元写真の特徴的な線を消しきることはできませんでした。降霊会が常に薄暗い照明の下で行われ、参加者が霊媒に触れることが厳しく禁じられていたのは、こうしたトリックを隠蔽するためだったのです。

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フランスの雑誌「Le Miroir」から作られた偽のエクトプラズム By Albert von Schrenck-Notzing, *Phenomena of Materialisation* (1920), Public Domain Source

 さらに後年、シュレンク=ノッツィングと共に研究を行ったギュスターヴ・ジェリー博士の未公開ファイルから、エクトプラズムが針金でエヴァの髪に固定されていたことを示す写真が発見されました。ジェリーやリシェ、シュレンク=ノッツィングといった主要な研究者たちは、これらの不正の証拠を知りながらも、心霊現象の存在を信じるあまり、スキャンダルを公にせず隠蔽していたことも明らかになっています。

5. 歴史的文脈と評価

 エヴァ・カリエールの活動は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのスピリチュアリズムの熱狂と欺瞞を象徴する事例です。第一次世界大戦やスペイン風邪で多くの人々が近親者を失い、死後の世界や霊との再会に希望を求めた時代背景が、彼女のような霊媒が活躍する土壌を生み出しました。

 現代において、彼女は詐欺師として評価が定まっていますが、その物語は単なるオカルト史の逸話にとどまりません。科学と神秘主義が交錯し、メディアがスキャンダルを増幅させた20世紀初頭の社会を映し出す鏡として、歴史家や文化研究の対象となっています。

 エヴァ・カリエールの降霊会は、人間の信仰、欲望、そして欺瞞が織りなす一つの時代の肖像画と言えるでしょう。

参考:
Eva Carrière(Wikipedia)
Phenomena of Materialisation (1923)
Psi Encyclopedia
ほか

文=ヨミノ・ユナ

神奈川県在住の主婦ライター。得意ジャンルは都市伝説、オカルト、ネット文化、歴史ミステリー。子育ての傍ら、深夜にネットサーフィンをする中で出会った不思議な話を探求するのが趣味。タイムトラベルやパラレルワールド系のSFが大好物。

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