黄金、巨人、失われた大陸… シャスタ山の秘密トンネルと消えた地質学者。人々を熱狂させた伝説の真相とは

「シャスタ山の奥深くには、黄金と巨人の骸骨で満たされた、長さ17kmにも及ぶ秘密のトンネルが存在する」――。1934年、J.C.ブラウンと名乗る一人の地質学者が語り始めたこの物語は、当時のカリフォルニアの人々を瞬く間に魅了した。
彼は80人以上もの探検隊を組織し、世紀の大発見へと乗り出そうとしていた。しかし、出発予定日の数日前、ブラウンは忽然と姿を消す。彼の言葉は真実だったのか、それとも壮大な嘘だったのか。一人の男の失踪と共に、今なお語り継がれる謎多き伝説の核心に迫る。
時代が求めた“完璧な”大発見
なぜ人々は、ブラウンの話にこれほど熱狂したのだろうか。その答えは、1930年代という時代背景にあった。
当時、世界は考古学ブームに沸いていた。わずか10年ほど前に発見されたツタンカーメン王の墓からは、黄金のマスクをはじめとする眩いばかりの財宝が見つかり、人々は地球のどこかにまだ眠っているであろう未知のロマンに心を躍らせていた。
時を同じくしてカリフォルニアでは、太平洋に沈んだとされる伝説の「レムリア大陸」と、その生き残りである超人的な存在「レムリア人」が、霊峰シャスタ山に隠れ住んでいるというオカルト的な説が、書籍などを通じて爆発的な人気を博していた。さらに、この地域の先住民の伝承にも、かつてこの地を歩き回っていたという「巨人族」の物語が古くから語り継がれていた。
ツタンカーメンの財宝、レムリア人の謎、そして先住民の巨人伝説。ブラウンが語った「黄金と巨人の骸骨が眠るトンネル」という物語は、当時の人々が信じたくなる要素が完璧に揃った、まさに“時代が求めた大発見”だったのである。

80人の探検隊と、出発直前に消えた男
ブラウンの物語は、またたく間に人々の心を掴んだ。彼は探検隊を組織するため、博物館の学芸員や新聞編集者、科学者を含む80人以上の人々を集めた。驚くべきことに、彼は参加者から金銭を要求せず、「トンネル内の部屋のうち、2部屋の中身は君たちのものだ」と約束したという。
6週間にわたって毎晩のように計画会議が開かれ、探検への期待は最高潮に達していた。出発予定日は、1934年6月19日。しかし、その日、主役であるはずのブラウンは待ち合わせ場所に現れなかった。心配したメンバーが警察に届け出たが、彼が二度と人々の前に姿を現すことはなかった。
一体、彼に何があったのか。あまりに出来すぎた話に、探検隊のメンバーが口封じのために彼を消したのではないか、という黒い噂も流れた。あるいは、そもそもすべてが彼のでっちあげだったのか。謎なのは、彼がトンネルを発見したと主張する1904年から、公表する1934年まで、30年間も沈黙していたことだ。その長い沈黙の意味もまた、彼の失踪と共に闇に葬られた。

なぜ我々は「壮大な嘘」に騙されるのか
この一連の騒動は、一体何だったのか。ウェイクフォレスト大学の心理学者、ジョン・ペトロチェリ教授は、「人々は“でたらめ”を見抜くのが恐ろしく下手だ」と指摘する。
ブラウンの物語は、事実(シャスタ山周辺には洞窟がある)と、人々が信じたい願望(財宝、レムリア伝説、巨人)を巧みに混ぜ合わせた、「真実に近い嘘」だった。だからこそ、多くの人々がそれを信じてしまったのだ。人々は人を感動させたり、説得したりするため、あるいは自らの価値観を補強するために物語を作り上げる。ブラウンもまた、人々を惹きつける物語の力を知っていたのかもしれない。
映画『インディ・ジョーンズ』が人々を魅了するように、私たちは本能的に宝探しや冒険譚が好きだ。J.C.ブラウンの正体も、トンネルの真偽も、今となっては確かめようがない。しかし、この謎に満ちた物語が90年近く経った今もなお語り継がれているのは、それが私たちの心の奥底に眠る冒険心とロマンを、今も激しく揺さぶるからなのだろう。
参考:SFGATE、ほか
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊黄金、巨人、失われた大陸… シャスタ山の秘密トンネルと消えた地質学者。人々を熱狂させた伝説の真相とはのページです。巨人、地底世界、黄金、レムリア、シャスタ山などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで