地球の座標「0,0」に浮かぶ“Null島”には何があるのか?― 世界中の“エラー”が集まる謎の場所

大西洋の広大な海原の真ん中に、地図製作者や科学者、そしてIT開発者たちの好奇心をかき立てる、奇妙な場所が存在する。その名は「ヌル島(Null Island)」。
しかし、その名に反して、ここは実在する島ではない。ヌル島とは、地球の座標の基点である緯度0度、経度0度が交差する、ただ一点の地理的なポイントなのである。
緯度0度、経度0度の海に浮かぶもの
ヌル島が位置するのは、アフリカ大陸の沖合数百キロ、ギニア湾の海上だ。そこに陸地は一切存在しない。あるのは水深約4940メートルの深い海の上に、ポツンと浮かぶ一体の気象観測ブイだけである。

このブイは、大西洋の熱帯気候を監視する国際的なプロジェクト「PIRATA」に属しており、海流や風、海水温といった貴重なデータを収集し、気候変動の研究に貢献している。
つまり、ヌル島は、地球の座標系が作り出した、象徴的な交差点に過ぎないのだ。では、なぜこの何もない海の真ん中が、「島」として語られるようになったのだろうか。

“地図のエラー”が生んだ架空の島
「ヌル島」という名前が生まれたのは、地図製作とテクノロジーの世界であった。その誕生の背景には、「ジオコーディング」のエラーという、極めて実用的な問題がある。
ジオコーディングとは、住所や地名といった情報を、緯度・経度の座標に変換する技術だ。しかし、システムが何らかの理由で正しい位置情報を特定できなかった場合、そのデータはしばしば、デフォルト値である座標0,0、すなわちヌル島に記録されてしまう。
これは実質的に、何百万もの欠陥のある位置情報データが、この架空の島に「ゴミ箱」のように捨てられていることを意味する。地図アプリ、スマートフォンの位置情報サービス、SNS、そして配達プラットフォームまで、世界中のシステムが、誤ってこの存在しない住所に情報を送り続けているのだ。
この概念が広く知られるようになったのは、「Natural Earth」というパブリックドメインの地図データセットが、ヌル島を「面積1平方メートルの架空の島」として地図上に記載したことがきっかけだった。
すると、この“遊び心”はネット上で独り歩きを始める。インターネットユーザーたちは、ヌル島の国旗をデザインし、架空の国章を考え、そして存在しない住民の物語を創作した。

科学とデジタル文化の交差点
こうして、単なる技術的なエラー処理のための便宜的な点が、デジタル地図と地理情報システムの専門家たちの間で、一種の文化的なアイコンへと変貌を遂げたのである。
オンラインマップ上では、ヌル島に道路やホテル、レストランが存在するかのような表示が見られることがあるが、これらもすべて、座標0,0に集約されたシステムエラーの産物だ。
ヌル島には、ビーチも山もない。しかし、気候研究の最前線であると同時に、現代の地図製作における欠陥と好奇心の象徴として、この架空の島は、世界中の人々の興味を惹きつけ続けている。それは、テクノロジーと科学、そしてデジタル文化が交差する現代ならではの不思議な場所なのである。
参考:Misterios do Mundo、ほか
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