歯は“自己修復”する時代へ! “髪の毛のタンパク質”に着想を得た新技術で失われたエナメル質が再生する

虫歯になったら、歯医者で削って詰める。これが、何世紀にもわたって続いてきた歯科治療の常識だった。人体で最も硬い組織であるエナメル質は、一度失われると二度と再生しない。だからこそ、私たちはドリルと詰め物に頼るしかなかったのだ。
しかし、もし歯が自らの力で治癒できるとしたら?
 ロンドン大学キングス・カレッジの研究チームが発表した画期的な研究は、そんな夢物語を現実のものにしようとしている。彼らが開発したのは、なんと髪の毛や羊毛に含まれるタンパク質「ケラチン」から作られた、まったく新しい歯磨き粉。これが、歯科治療の歴史を根底から覆すかもしれない。
失われたエナメル質を「再生」させる新技術
エナメル質は、酸性の飲食物や細菌による攻撃から、私たちの歯を生涯にわたって守ってくれる鎧のような存在だ。しかし、この鎧には血が通っておらず、自己修復能力がない。そのため、一度侵食が始まると、やがて虫歯となり、削って詰めるというサイクルが始まる。そして最終的には、歯そのものを失うことにもなりかねない。
フッ素による再石灰化も、ごく初期の表面的なダメージにしか効果がない。しかし、今回研究チームが開発したのは、これまでの「補修」という考え方とは全く異なる「再生」というアプローチだ。
 彼らは、羊毛から抽出したケラチンを使い、水性の透明なフィルムを開発。このフィルムは、歯の発生段階でエナメル質が成長する際の「足場」と同じような構造を持っている。つまり、損傷したエナメル質の上にこのタンパク質の骨格を置き、そこにミネラル豊富な溶液を供給することで、生物学的な力でエナメル質を“育て直す”というのだ。そして、その試みは成功した。

わずか30日でエナメル質が再生―その驚くべきメカニズム
実験では、酸によって損傷した歯の表面にケラチンフィルムを貼り付けた。すると、このフィルムが磁石のようにカルシウムやリン酸といったミネラルイオンを引き寄せ、自然のエナメル質が成長するのと同じように、針状の結晶を形成し始めたのだ。
わずか数日で、これらの結晶はエナメル質の微細な傷を埋め尽くした。そして30日後には、ケラチンでコーティングされたサンプルは、本物のエナメル質とほぼ同じ特性を持つ、緻密で秩序だった層で覆われていたという。それはもはや「補修」ではなく、紛れもない「再生」だった。

 研究の筆頭著者であるサラ・ガメア博士は、「ケラチンは現在の歯科治療に革命をもたらす代替手段です。持続可能な生物廃棄物から作られるだけでなく、毒性があり耐久性の低い従来のプラスチック樹脂も不要になります。さらに、元の歯の色に近いため、見た目もはるかに自然です」と、その利点を強調する。
歯科治療の新時代へ―「生物再生」という未来
この研究が実用化されれば、歯科治療は「機械的な修復」から「生物学的な再生」という、まったく新しいパラダイムへと移行するだろう。つまり、人間の身体が本来持つ治癒能力を最大限に引き出し、魔法のような自己修復を実現するのだ。
もちろん、実用化までには、人間での安全性や有効性を証明する臨床試験など、いくつかのハードルが残っている。再生されたエナメル質が、本物と同じくらい長持ちするのかという疑問もある。
しかし、その展望は極めて明るい。研究を主導するシェリフ・エルシャカウィ博士は、こう締めくくる。「私たちは、身体自身の材料を使って生物学的機能を回復させる、エキサイティングなバイオテクノロジーの時代に突入しています。さらなる開発が進めば、私たちはすぐにでも、散髪で出るような髪の毛から、より強く、より健康な笑顔を“育てる”ことができるようになるかもしれません」
歯を削る必要がなくなる日も、そう遠くないのかもしれない。
参考:ZME Science、ほか
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2024.10.02 20:00心霊歯は“自己修復”する時代へ! “髪の毛のタンパク質”に着想を得た新技術で失われたエナメル質が再生するのページです。髪の毛、歯、再生、虫歯などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで