「ここから生きて出られるか分からない」 自らの死を予言し、海底160メートルで24時間救助を待ち続けたダイバーの最期

1979年、北海の冷たい深海で起きた一つの事故が、商業ダイビングの歴史を永遠に変えることになった。スコットランド沖のシェトランド海盆で行われていた潜水作業中、リチャード・アーサー・ウォーカー(32歳)とビクター・フランシス・”スキップ”・グイエル・ジュニア(28歳)の2名のダイバーが命を落とした。彼らが乗っていたダイビングベル(潜水鐘)が母船からのリフトと切り離され、水深520フィート(約160メートル)の海底に取り残されてしまったのだ。
この悲劇には、不気味な前兆があった。事故後の調査で、ウォーカーの日記には「ここから生きて出られるか分からない」という記述が見つかった。まるで自らの運命を予見していたかのような言葉は、遺された家族や関係者に深い衝撃を与えた。
命綱だけが頼りの絶望的な状況
事故はダイバーたちが深海の水圧に順応し、作業を開始しようとした矢先に起こった。ダイビングベルがリフトから外れ、彼らの命を繋ぐのは、熱、電力、通信、そして呼吸用ガスを供給する「アンビリカルケーブル(へその緒)」だけとなってしまったのだ。
救助活動は難航を極めた。別のダイビング船「ステナ・ウェルダー」が現場に急行し、救助ダイバーを降ろしたが、照明トラブルやトランスポンダーの故障により、海底のダイビングベルを発見するまでに1時間以上を要した。

救助の失敗と最期の瞬間
さらに事態は悪化する。救助ダイバーがガイドワイヤーを設置しようとした際、パニックに陥ったウォーカーとグイエルが必死になっている様子が目撃されている。母船「ワイルドレイク」からのクレーン操作のミスにより、ダイビングベルは海底の構造物に引っかかり、救助用のフックだけが空しく引き上げられてしまった。
最終的に救助ダイバーがたどり着いたとき、彼らは最後の力を振り絞って自らワイヤーを切断しようとしていた形跡があったが、力尽きていた。24時間後、ようやく引き上げられた時には、2人はすでに低体温症で死亡していた。

安全よりもスピードを優先した代償
その後の調査で、複数の安全違反と過失が明らかになった。裁判所は「請負業者は安全よりもスピードを優先していた」と厳しく断じ、もし適切な手順が踏まれていれば彼らは助かった可能性が高いと指摘した。
この事故をきっかけに業界の安全基準は見直されたが、遺族にとってそれは慰めにはならなかった。ウォーカーとグイエルの死は、深海作業という極限環境における人間の脆さと、安全管理の重要性を残酷なまでに浮き彫りにしたのである。
北海で起きたこれらの悲劇は、先日TOCANAでも報じた1983年の「バイフォード・ドルフィン事故」の悪夢を想起させる。わずか一瞬の減圧ミスで内臓が放出され、5人が命を落としたあの惨劇もまた、安全よりも効率が優先された結果だった。危険を伴う作業では、一つの小さな判断ミスが、二度と戻れない絶望への入り口となることを、私たちは決して忘れてはならない。
参考:Mirror、ほか
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2024.10.02 20:00心霊「ここから生きて出られるか分からない」 自らの死を予言し、海底160メートルで24時間救助を待ち続けたダイバーの最期のページです。ダイビング、ダイバー、北海などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで