【エベレスト史上最狂の怪死】「祈りと断食」で頂上を目指した英国人将校、その無謀すぎる最期と“氷壁の祈祷”

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 世界最高峰、エベレスト。そこは、数多の登山家たちが命を落としてきた「デスゾーン」だ。現代では渋滞や商業登山が問題視されているが、かつて、それらとは全く次元の異なる、ある意味で「最も奇妙な死」を遂げた男がいた。

 彼の名はモーリス・ウィルソン。登山経験ほぼゼロ。武器は「信仰心」と「断食」。そして、エベレストの中腹に飛行機で特攻し、そこから歩いて登頂するという、正気の沙汰とは思えない計画を実行した男だ。

 彼を突き動かしたものは何だったのか。その足跡を辿ると、狂気と純粋さが入り混じった、一人の人間の凄まじい執念が見えてくる。

狂気のプラン:飛行機を「不時着」させて登る

 1934年、英国陸軍の将校だったウィルソンは、エベレスト登頂という野望を抱く。しかし、彼の考えたルートは前代未聞だった。中古の複葉機「ジプシー・モス」を自ら操縦して英国からチベットまで飛び、エベレストの斜面にわざと墜落(不時着)させ、そこから頂上まで歩くというのだ。

「登山経験がないなら、上まで飛んでいけばいい」という発想、一見すると合理的(?)なようでいて、生存確率は限りなくゼロに近い。一歩引いて見れば、これは冒険というよりは、神への生贄を捧げる儀式のようなものだ。

 ウィルソンがここまで頑なだったのには理由がある。彼はかつて、断食と祈りによって自身の結核を完治させたと固く信じていたのだ。彼は自分の肉体的な限界を信仰の力で突破できると確信しており、それを世界に証明するためにエベレストを選んだのである。

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ウィルソンがインドへ向かう際に使用したとされる「ジプシー・モス」機 写真提供:チリ国立航空宇宙博物館(Museo Nacional Aeronáutico y del Espacio, Chile)。画像リンクCC BY-SA 2.5Wikimedia Commons

僧侶に変装して密入国? 執念のチベット入り

 彼の計画は最初からトラブルの連続だった。英国からインドまで単独飛行を成功させたものの、インド当局に機体を没収されてしまう。普通の人間ならここで諦めるだろう。しかし、ウィルソンは違った。

 なんと彼は、仏教僧に変装して当局の目を盗み、徒歩でチベットへと密入国を果たしたのだ。このエピソードだけ聞くと、まるでスパイ映画のようである。日本ではあまり馴染みがないが、当時の英国において、エベレストはまさに「聖地」であり、彼は何かに取り憑かれた巡礼者のようだったのかもしれない。

 結局、飛行機特攻プランは頓挫したものの、彼は独力でエベレストのベースキャンプへと到達してしまった。

標高7000メートルで「断食と祈り」という自殺行為

 1934年の春、ウィルソンは単身、北壁からの登頂を開始する。彼の装備はあまりにも貧弱だった。アイゼン(氷の上を歩くための爪)の使い方も知らず、前年の遠征隊が残した氷の階段がまだ残っているはずだと信じ込んでいたという。

 さらに驚くべきは、過酷な高山地帯で彼が頼ったのは、栄養補給ではなく「断食」と「祈り」だったことだ。空気が薄く、肉体が猛烈なカロリーを欲する極限状態で、彼は食べることすら拒絶した。

 同行していた2人のシェルパは、彼の命が危ないと悟り、下山するよう必死に説得した。だが、ウィルソンはそれを拒否。「が守ってくれる」という確信のもと、一人で北コルの氷壁へと消えていった。

 5月31日、彼が日記に記した最後の一言は、あまりにも淡々としていた。

「今日も出発だ。素晴らしい日だ」

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画像は「Mirror」より

氷の中に消えた「信仰」のゆくえ

 その翌年、エリック・シップトン率いる英国遠征隊が、北コルの麓で凍りついたウィルソンの遺体を発見した。彼はボロボロになったテントの傍らで、静かに息絶えていたという。死因は極度の疲労、あるいは餓死。彼の遺体は近くのクレバス(氷の裂け目)に埋葬された。

 考えてみると、ウィルソンの行動は現代の登山常識からすれば「無謀」の一言で片付けられてしまうだろう。しかし、彼が求めていたのは山頂という地理的なポイントではなく、神との合一という宗教的な体験だったのかもしれない。

 エベレストには今も300人以上の遺体が眠っていると言われ、中には「グリーンブーツ」のように登山ルートの標識代わりになっている遺体もある。だが、モーリス・ウィルソンほど、自らの信念を貫き、そして自滅していった例は他にないだろう。

 彼が最後に見た「素晴らしい日」の景色は、果たしてどのようなものだったのか。それは、我々凡人には決して到達できない、狂気と隣り合わせの絶景だったに違いない。

参考:Mirror、ほか

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