「もうダメだ」 救助隊の目の前で力尽きた若き登山家。アイガー北壁に残された“最も残酷で悲しい最期”の記録

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アイガー北壁 Von Terra3Eigenes Werk, CC BY-SA 3.0, Link

 1936年、スイスのアイガー北壁で起きた悲劇は、登山史上最も過酷で、そして最も悲しい出来事の一つとして記憶されている。ドイツの若き登山家トニー・クルツは、救助隊の手が届くわずか数メートルの距離で、力尽きて息を引き取った——。

 クルツは1913年生まれ。幼い頃からバイエルンの山々に親しみ、金属加工職人としての修行を経て、ドイツのエリート山岳部隊に入隊した。その技術と精神力は折り紙付きで、23歳にしてすでにアルプスの難所をいくつも制覇していた。

「死の壁」への挑戦と致命的なミス

 クルツは相棒のアンドレアス・ヒンターシュトイサーと共に、当時まだ未踏峰だったアイガー北壁、「死の壁」に挑んだ。彼らはオーストリア人のウィリー・アンゲラー、エディ・ライナーと合流し、4人で頂上を目指した。

 ヒンターシュトイサーは「ヒンターシュトイサー・トラバース」として知られる岩壁を横断するルートを切り開いたが、彼らはここで致命的なミスを犯す。通過後にザイル(ロープ)を回収してしまったのだ。その後、天候が悪化し、アンゲラーが落石で重傷を負ったため撤退を決断したが、ザイルがないためトラバースを戻ることができず、彼らは絶壁に取り残されてしまう。

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仲間を失い、たどり着いた最後の言葉

 嵐の中、ヒンターシュトイサーは滑落死し、アンゲラーは凍死、ライナーもザイルに絡まって窒息死した。ただ一人残されたクルツは、片腕が凍傷で動かない状態で、死んだ仲間たちのザイルを切り繋ぎ、懸垂下降を試みた。

 救助隊が駆けつけたが、悪天候のため近づけない。クルツは極寒の中で一夜を明かし、翌日、凍えきった手でザイルを結び直し、救助隊の元へ降りようとした。しかし、結び目がカラビナに引っかかり、あと数メートルというところで宙吊りになってしまう。

 救助隊の手は目の前にあった。だが、もう体力は残っていなかった。クルツは静かにこう言った。「もうダメだ(I can’t go on)」。それが彼の最期の言葉となり、そのまま動かなくなった。

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 ハインリヒ・ハラーの著書『白い蜘蛛』にも描かれたこの悲劇。アイガーの風に消えた彼の最後の言葉は、今も山を愛する者たちの心に重く響き続けている。

参考:Daily Star、ほか

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