衛星同士の衝突が連鎖し、地球の空が「封鎖」される!? 早ければ2040年に始まる「ケスラー症候群」の悪夢

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 私たちの頭上数百キロの宇宙空間で今、静かに時限爆弾の針が進んでいる。人類が打ち上げ続けてきた人工衛星とその残骸が、ある臨界点を超えた瞬間、衝突が衝突を呼ぶ連鎖反応が始まるというのだ。

 その結末は、地球の低軌道が数十年、場合によっては数世紀にわたって使えなくなる事態だ。半世紀近く前に科学者が鳴らした警鐘「ケスラー症候群」が、いよいよ現実味を帯びてきている。

1978年の論文が予言した「宇宙版の小惑星帯」

 1957年に人類初の人工衛星が軌道に乗って以来、偵察からGPSまで、私たちの暮らしは衛星なしでは成り立たなくなった。この状況に危機感を示したのが、NASAのドナルド・ケスラー氏とバートン・クール=パレ氏だ。両氏は1978年の論文で、稼働中の衛星と役目を終えた衛星が増えるほど衝突の確率は上がると指摘した。

 軌道上の物体は平均で秒速約10kmという猛烈な速度でぶつかるため、衝突部は溶けたり蒸発したりし、双方の機体が丸ごと粉砕されかねない。その破片がさらに別の衛星に当たり、被害はネズミ算式に膨らんでいく。

 両氏は、今後100年以内に地球の周りに小惑星帯のような「デブリ帯」が形成されうると予測し、衛星の打ち上げ制限を提言した。

予言を裏付けた2つの破壊事件、衛星は1万8850基に

 しかし人類は、その提言とは真逆の道を突き進んだ。2026年7月末時点で地球を周回する衛星は約1万8850基、総重量はおよそ1万7000トンに達する。軌道上での分解・爆発・衝突は、すでに660件以上が記録されている。

 ケスラー氏は1991年にもこの問題を再検証した。予測に不確かさは残るものの、低軌道の物体がほとんど増えなくても連鎖衝突は起こりうるとの見解を示している。

 警告はやがて現実となる。2007年、中国が中距離ミサイルで自国の気象衛星「風雲1号C」を破壊する衛星攻撃兵器の実験を強行し、追跡可能な破片だけで3300個がばらまかれた。欧州宇宙機関(ESA)は、それまでの最悪例の約3.5倍にあたる史上最悪の破砕事故と評している。高度約800kmの軌道では、いまもデブリとの異常接近の約3割がこの破片によるものだという。

 2009年2月には、史上初となる衛星同士の偶発的な衝突が起きた。運用中の米通信衛星イリジウム33号と、16年前に打ち上げられ機能を停止していたロシアの衛星コスモス2251号が、秒速11.6kmで激突したのだ。両機は1000分の1秒足らずで砕け散り、追跡可能な破片が約2000個、センチ単位の微小な破片は推定10万個に及んだ。ケスラー氏らの想定とほぼ一致する速度だ。

宇宙は「早い者勝ち」なのか、迫るタイムリミット

 デブリを捕獲して回収する計画や、大気圏に押し込んで燃やす計画も進んでいる。だが問題の規模を考えれば、一筋縄ではいかない。

 さらに厄介なのが、宇宙の利用が事実上「早い者勝ち」になっている点だ。衛星の経済性を分析した最近の研究は、各事業者が他の衛星に与えるリスクを自分のコストとして負担していない現状を強く問題視している。むしろ、破局を招く行動ほど得をする構造すらあると研究チームは指摘する。

 チームはこれを乱獲による生物の絶滅になぞらえる。将来の利益より目先の利益が大きければ、資源を食い尽くすのが「合理的」になってしまうのだ。その試算によれば、ケスラー症候群は早ければ2040年、遅くとも2184年までに始まる可能性があるという。

イーロン・マスク氏らの衛星網構想で、打ち上げ数は今後さらに増える見込みだ。そして2026年9月13日にも、冷戦時代の衛星が粉々に砕ける出来事が起きた。連鎖の予兆は、すでに頭上で起きている。

 夜空を横切る衛星の光は、宇宙時代の繁栄の象徴だった。それが人類を地上に閉じ込める「檻」に変わるのかどうかは、この先の数十年の選択にかかっている。

参考:IFLScience、ほか

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