静止衛星より近い距離を通過する「混沌の神」アポフィス、2029年に地球人口の90%が目撃する超接近フライバイ

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 夜空を横切る一筋の光を、地球人口の90%が同時に見上げる――そんな「共有された宇宙体験」が、3年足らず先に迫っている。

 2029年4月13日、全長約450メートルの小惑星「アポフィス」が、静止衛星の軌道よりも内側を通過する超近接フライバイを行う。イタリア・パドヴァ大学で開かれた専門家会合では、最大76億人がこの巨大な岩塊を肉眼で目撃できる可能性を示す新しい軌道地図が公表された。人類が事前に軌道を予測できた小惑星としては、史上初めて肉眼観測が可能になる接近だという。

「混沌の神」は静止衛星より近くを通過する

 正式名称「99942 Apophis」は、ピーナッツ状の岩塊で最大幅は約450メートル、エンパイア・ステート・ビルの高さに匹敵する。仮に地球に衝突すれば都市ひとつを壊滅させかねない大きさとされる。

 火星と木星の間の小惑星帯を起源とするとみられるが、現在は金星と地球の軌道の間を約10.5カ月周期で公転している。名前は古代エジプト神話の闇と混沌の蛇神アペプに由来し、「混沌の神」の異名がついた。

 米プラネタリー・ソサエティによれば、最接近時のアポフィスは地球からわずか約3万600キロメートルまで接近する。ISSなど低軌道の衛星群よりは遠いが、高度約3万6000キロの静止軌道上の衛星よりも近い。これらの衛星は軌道をずらせるため衝突の危険はないという。

76億人が目撃する7時間、北米だけは蚊帳の外

 6月18〜19日にイタリア・パドヴァ大学で開催された「アポフィスT-3年ワークショップ」では、約7時間続くフライバイの各時点で観測可能な人口を示す地図が公開された。

 開始時、地球から最も遠いアポフィスはオーストラリアとアジアの大部分にまたがる約45億人の視界に入る。中間地点では東アフリカ、南欧、オーストラリア、アジア全域と中東を合わせた約57億人が観測できる「ピーク」を迎える。

 フライバイ終盤、最接近の瞬間には南米東部・北アフリカ・欧州の一部にまたがる約19億人がその姿を捉えられる計算だ。一方、北米大陸だけはこの天体ショーを拝めない唯一の大陸になるという。

 ワークショップの主催者の一人、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の惑星科学者リチャード・ビンゼル氏は、アポフィスの通過を見つめることは、広大な宇宙の中で地球という星がいかに小さいかを実感させる体験になるとの見方を示した。

画像は「Live Science」より

衝突確率はゼロでも消えない「軌道攪乱」への懸念

 現時点で、アポフィスが今回のフライバイや今後100年以内に地球に衝突する可能性はゼロとされている。ただし一部の専門家は、接近までに軌道がわずかに変化する可能性を否定できないと指摘する。

 さらに懸念されるのが、フライバイ自体がアポフィスに及ぼす影響だ。地球接近時の重力作用が本体を変形させたり軌道をわずかに逸らせたりし、将来の衝突リスクをかえって高める可能性があるという声も専門家の間にある。

 このため世界中の天文台が観測態勢を組み、NASAの探査機「OSIRIS-APEX」もアポフィスに接近し構造と軌道を調べる計画だ。国連はこの機会をとらえ、2029年を「国際小惑星認識・惑星防衛年」と定めている。

 ビンゼル氏は、今回のフライバイが恐怖の対象ではなく、若い世代が宇宙科学の道に進むきっかけになることを期待していると語った。

 76億の人類が同じ夜空を見上げるこの「千年に一度」の機会は、恐怖よりも好奇心を刺激する催しとして記憶されそうだ。

参考:Live ScienceThe Planetary Society、ほか

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