死者はあなたを見守っている ― 実地調査でわかった、愛する者の死と、残された者のその後
■「便りの無いのは良い便り」は本当か!?
もちろん、双子以外を対象にした調査も着実に進められている。
バージニア大学の心理学者、イアン・スティーブンソン氏は、遠く離れた親しい者の死や危機をどのようにして知るのかを165の事例を入念に分析して研究した。
起床時に親しい者の不幸を知らされた9割の者のうち、3分の2は家族からの急な電話などで知り、その連絡内容の82パーセントは死亡、病状の急激な悪化、事故に関する連絡であるということだ。確かに、親族からの急な連絡には訃報、不幸が多いことは否めない事実だろう。
では、テレパシー的な「悲哀の幻覚」についても、やはり訃報が多いのだろうか?
2006年にアイスランドの研究者たちは、不意に訪れるこれらの「悲哀の幻覚」が伝える内容は、ずばぬけて高い確率で、親しい者の「突然死」や「事故死」であることを発見した。
特に2度の世界大戦中は、戦場で夫や息子、兄弟を亡くした家族たちの多くが「悲哀の幻覚」症状を体験していることがわかっている。しかしながら何故、これらの「悲哀の幻覚」は訃報や不幸ばかりなのか? 楽しい体験や感動体験はこれらの方法では共有できないものなのか?
バージニア大学の心理学者、イアン・スティーブンソン氏は「痛みや恐れを伴う体験は、ほかのものとはおそらく感情の質が違うのだと思う」と述べていて、「このショッキングな感情は他の感情よりも伝わりやすい」のだと指摘している。
■人を行動に駆り立てる「確信的直感」
ある日突然、「悲哀の幻覚」に襲われた者の実に半数が、思い当たる者に電話をかけたり、あるいは実際に会いに出かけたりするなど、すぐさま何らかの行動に出ているという。そしてその結果、恐れていた現実に直面するケースも決して少なくないということだ。
深夜に娘が深刻なトラブルに巻き込まれているという突然の感情に襲われて目覚め、何はともあれ50マイル離れた地に住む娘のもとへと車で向かったという女性の事例がある。
そこでこの母親が見たものは、武装した強盗に娘の家が襲撃されている事件現場だったのだ。
これらの事例に直面したとき、続いて起こる疑問は、このような感情が沸き起こってきたとき、どうしてそれが実際に起こっている出来事であるとわかるのか? というものだ。
残念ながらこれに関しては今のところまだ謎のままである。前出の心理学者、スティーブンソン氏もこれに関してはまだうまく説明できる理論がないことを認めながらも、「人間を実際の行動に駆り立てる“確信的な直感”と、単なる“心配”や“懸念”との間には大きな違いがあるのは明らかだ」と述べている。
■痛みや手触りを伴う親しい者の死
喜びや悲しみを共有した親しい者の「悲哀の幻覚」には、リアルな手触りや時には痛みさえ伴うという。
海軍軍人であるレイモンド・ハンター氏は、肺がんの父が亡くなった夜に倒れそうなほどの胸の激痛と呼吸困難に襲われたという。
「歯を食いしばって痛みにこらえたけど、その時の痛みにはまったくお手上げだった」と、ハンター氏はその忘れられない夜のことを思い出している。
親しい者が事故や病気で亡くなる時に襲われるこのような「耐え難い痛み」も事例の中に多くみられることから、単なる悪夢だとして片付けられない現象であるという。
また親しい者の死後しばらくしてから、実際の「感触」を伴って死者の存在を感じるケースも多いという。
次に紹介するのは30代後半の女性の事例である。
女性はある深夜、午前2時頃に胸が張り裂けそうになるほどに心臓が高鳴って目覚めたという。しかししばらくすると鼓動は収まり、再び彼女は眠りに落ちた。明けた朝、彼女は車で勤務先へ向かっていた矢先、頬を撫でられる感触を覚えたという。彼女を可愛がっているような手つきだったということだ。
信号で停まっている間、ハンドルから離した彼女の手とその“手”が互いを握り締めあった時、彼女は奇妙な手触りを感じた……その手には中指がなかったのだ。
そして彼女は昨夜からの一連の出来事を一気に理解した。これは父の手なのだと。……父は彼女がまだ幼いとき、仕事先の建築現場の事故で中指を失っていたのだ。
勤務先に連絡を入れて一度家に戻った彼女は、夫から「今連絡があって、君のお父さんが昨晩亡くなったということだ」と聞かされる。彼女は驚かなかった。昨晩の胸の痛みは父が心臓発作で亡くなった瞬間のものであることは今の彼女にとっては明らかだったからだ。
いったいどうして、人は親しい者の不幸と痛みを“共有”できるのか? これについても今のところ有効な説明はないままであるが、多くの者がこの現象を非現実的な出来事として忘れ去ってはいないことも事実である。
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