「人間砲弾」に転職した弁護士 ― 彼がキャリアを捨てた“決定的な一言”とは?
■空高く飛ぶ仕事とは一体何か? 合言葉は「キャノンボール!」
それでは、ストッカーさんの新しい仕事の内容とはどのようなものなのか。サーカスにも色々あるが、彼のサーカスでの役割は「人間砲弾」ヒューマンキャノンボールだ。
1920年代、世界で初めて今の形で人間砲弾が公開され、当時売り上げの不振から破産寸前だったサーカスを救ったというエピソードもある。ストッカーさんは「車輪のついた砲台がステージに現れると、緊張が走ります。観客たちは、今からきっと何か凄いものが見られるのだということを知っているのでしょう」と語る。
アメリカのサーカスでこの人間砲弾が打ち上げられる時には、観客から「キャノンボール!」という掛け声が聞かれる。これが元で、高いところからダイブしたり、水に飛び込む時に子供や若者たちが「キャノンボール!」と叫ぶのも定番となっている。
これまでに彼は、サーカスで働くスタッフのために20もの基金を立ち上げ、1,400人収容のテントを購入するなどしてサーカスの存続を助けている。そして「サーカスは私の前職よりも大変なものですが、自由を感じるとともに、毎日何か新しい事が起こるこの職にワクワクしているんです」と満足気だった。
■気になるサーカススタッフの収入は?
それでは、年間数千万円を稼いでいたストッカーさんが転職したサーカスのスタッフの年収とは一体いくらなのだろう? 勿論、それぞれのサーカスの規模や国によって、収入は大きく違ってくるのだろうが、今回はアメリカのサーカスを例に挙げてみよう。
子供向けの小規模なサーカスでの年間報酬は約400万円、その上の規模になると年間約700万円。大きな有名サーカス団の主力団員は、それ以上を稼いでいるといわれている。アメリカでは子供だけでなく、大人も楽しめる素晴らしいサーカスがいくつかあるのだが、そのチケット代は1人1万円を上回ることも決して珍しくないのだ。
観覧席の数も、数百人規模から、大きなものは3千人近くのものまで様々。大きな会場で、1日に2回のステージを満席にするほどの人気サーカス団であれば、当然のことながらスタッフの収入も悪くはないのではないだろうか。ちなみにピエロ単体ならば、フリーランスで1時間約1万円から5万円近く稼ぐ人もいるようで、サーカスの仕事以外に個人や企業のパーティーで会場を盛り上げたり、ハロウィーンやクリスマスの時期にレストランなどで風船を配ってチップを稼いだりすることも可能だそうだ。
我々の人生の中には決断を迫られる時期が必ずあることだろう。しかし以前のストッカーさんのような多くの人が羨む華やかな暮らしを捨ててまでして、どれだけの人がこれほど大胆な選択を出来るだろうか。今日もストッカーさんは、沢山の子供や大人の「キャノンボール!」という歓声を受けて空高く飛んでいることだろう。
(文=清水ミロ)
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