リトアニアの「ミイラ医療」の実態 ― 200体のミイラが自ら検診にやってくる“死の部屋”で行われていること

 リトアニアの首都ヴィリニュスにある聖心ドミニコ教会は、町一番の壮麗なローマ・カトリック教会として名高い。しかし、その美しい姿とは裏腹に、地下室には変わり果てた異形が安置されているのを知る者は少ない――。


■教会の地下室に眠るミイラ

「すごく保存状態がいいので、まるで生きてるみたいです」と話すのは、イタリアの人類学者ダリオ・ピオンビーノ=マスカリ博士。彼は2011年からミイラ研究に没頭している。そう、この地下室には何世紀もの間、おびただしい数のミイラが横たわっているのだ。

 ミイラをひもとくことは、コロンブス以前のアメリカ大陸における心臓病から19世紀ヨーロッパで大流行した結核まで、かつて不治とされた病が地球上でどのように蔓延していたのかを地理的、歴史的に明らかにすることを意味する。考えてみれば、ミイラほど完璧に保存された人体標本もないだろう。彼らの健康状態、病気、死因を解明することが医療の発展へつながっていくのだ。

リトアニアの「ミイラ医療」の実態 ― 200体のミイラが自ら検診にやってくる死の部屋で行われていることの画像1HISTORY.com」の記事より

 最近になって彼の研究チームは、1体のミイラから天然痘ウイルスの残留を発見するに至った。天然痘は20世紀だけでも世界中で約3億人の命を奪った死病で、現在は「根絶された」とされるが近年、復活する可能性があると警告する専門家もおり、今後はそれに新しい光を当てることになりそうだ。

 歴史を遡れば、1960年代、ビリニュス大学の法医学者ジョーザス・アルビナス・マルキリーズ博士が、聖心ドミニコ教会で世界初のミイラ研究に着手したと記録されている。約500の遺体を確認し、そのうち200体がミイラ化していたという。

 だが1962年、当局による立入検査があり、ミイラをガラスで密封するよう指導されたという。パンデミックを危惧してのことだった。

リトアニアの「ミイラ医療」の実態 ― 200体のミイラが自ら検診にやってくる死の部屋で行われていることの画像2HISTORY.com」の記事より

 以来、この場所は「死の部屋」と呼ばれるようになったという。だが、ガラスが取り付けられた地下室は通気性が失われ、高湿度でミイラは腐り始めた。博士は政府に掛け合ってみたが無視され、死の部屋はそのまま閉鎖。2004年になるまで、立入禁止となっていた。

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