“失踪を繰り返す父”と“行方不明だった伯母”を撮り続けた写真家・金川晋吾作品集『father』インタビュー


■日記の代わりに自撮りをさせた

――お父さんに自撮りをさせたのはなぜですか?

金川 撮影を進めて行く間に思いついただけで、はっきりとした理由があったわけではないです。当時、父は本当に何もしていなかったから、何かさせたかったっていうのはあります。またいなくなるかもしれないっていう可能性も感じてたのかな。でも、それは絶対に避けたい事態ではなくて、それはそれで面白いかもしれないっていう思いもあったんですよね。


――お父さんと実社会をつなぐ 「よすが」 のような意味合いもあったのでしょうか? 実社会って役割がないと生きていくのがしんどいから。

金川 そこまで考えてなかったけれど、そのニュアンスはあったかもしれません。まあ、その時の僕と父の関係性の中で起きたことだと思います。「僕が撮らなくても自分で撮ってくれ」っていうような。


――その飛躍がちょっとわからないんです。作家のカンだといえば収まりはいいですけれど。

金川 1つには自分の手を離れて出てくるイメージが見てみたいということもあったのかもしれません。こういう父の自撮りの作品を面白がる感覚というのは、先生だった鈴木理策さん(写真家・東京藝術大学准教授)の影響がけっこうあるんじゃないかと思っています。カメラは撮り手の考えをイメージ化するだけでなく、そのものが1つの独立した眼にもなりますよね。それを、被写体に渡して勝手にやってくれということがやってみたかったのかもしれません。父に「毎日日記をつけてくれ」って言っても面倒だからやらないと思いますが、シャッターを押すだけなら何も考えずにやれるのでやってくれるんじゃないかと思ったんですよね。


――作家自身の想像の先にある何かを見たいと思ってカメラを放り投げてみたと?

金川 それはあったと思いますし、そういうことが可能になる関係性が父と僕の間にはあったんだと思います。あとは父という人間のパーソナリティーが写真と相性がいいのだと思います。面倒なことでなければ頼めばいろいろとやってくれる寛容さ、親切心があの人にはあります。「生きていくのが面倒くさい」というメモ書きを書いた人間が、これだけ毎日自撮りを続けているというのはなんだか妙な気持ちになりますよね。

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