『RAW SOUL』李岳凌/赤々舎
――その点について、詳しく教えてください。
李 視覚的なものであれ、聴覚的なものであれ、オブジェクト(客体)が発する知覚情報を人というサブジェクト(主体)が受け取る時は、どちらも知覚→識別→信号→概念といった過程を経て認知に至ります。つまり、感覚受容器への刺激に始まり、脳内でそれは何かが自動的に識別され、人為的信号または概念思考といった解釈へと繋がるわけです。ただ、人の脳の働きがあまりにも速いため、私たちはこのプロセスに気づかず、それが何かを無意識に、ストレートに認識しているんですね。
このような知覚的奥行きは、ミュジック・コンクレートの重鎮、ミシェル・シオンの言う、聴取における3つの階層と対応しています。コーザル・リスニング(causal listening)なら、自分の横で犬が吠える、それを認識する、本能的に逃げたくなるという聴取。言葉や語義を解読していく聴取は、セマンティック・リスニング(semantic listening)になります。還元的聴取とも訳されているリデュースド・リスニング(reduced listening)は、音を変質させてつくる具体音楽、知覚の宙吊り、音が持つ原初的な質感を知覚することなどがそうです。
写真家に例えれば、アレックス・ウェッブの眼差しはコーザルリスニングに近いものを感じます。一方で、ゲオルギィ・ピンカソフの眼はリデュースド・リスニングと類似しています。私自身も、写真を撮っているうちに、自分がどのように物事を見て、その見方が変わってきたのかを音楽理論で説明できるということに気づきました。
――詳しく教えてください。