史上初! 生まれながらの全盲者が映画監督になるドキュメンタリー『ナイトクルージング』が面白すぎる! 監督・佐々木誠インタビュー「他者とのイメージの共有…」

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■ノーマライゼーションって何?

――『ナイトクルージング』のラストで、佐々木さんが加藤さんに「自分の映画を見てどう思った?」という質問をしていましたね。

佐々木 映画ができたら作品で判断される。そこは重要で、目が見えようが見えまいが、あなたはその映画で判断される。面白いか面白くないか、好きか嫌いかで判断されるんだよって伝えたかったんです。

――作家の評価の対象は作品にしかないという当たり前のことを冷静に伝えた。

佐々木 そうです。自分の経験から言ってそれしかない。厳しい評価を受けてもそれは受け止めるしかないよって。

――「ノーマライゼーション」という言葉がそこかしこで聞かれますが、これこそが本当の意味でのノーマライゼーションなんじゃないかと思いました。自分がやったことの結果に障害のあるなしは関係ないですから。

佐々木 できた映画が面白いか否かについては、目が見えないことは言い訳になりませんからね。映画を作ることも含めて、最終的にすべての判断を下したのは加藤くん本人。だから、『ナイトクルージング』は、映画を作る視覚障がい者のドキュメンタリーというよりは、映画作家の誕生物語なんです。劇場公開後に批判を受けることもあるかもしれない。でも、それで初めて映画は完成するんですよ。

■目が見えている人は、実は、何も見えていない

――『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』のときにも感じたんですけれど、佐々木さんは作品中に複数のレイヤーを用意しているから、考えながら観ているとクラクラするんですよ。あえて言うなら、佐々木さんはこの映画で、何を見せたいのでしょう?

佐々木 それぞれのレイヤーは、視覚障がい者を巡るさまざまな事象への僕自身の見解で、それには否定も肯定も皮肉もあるから、観る人がどこに引っかかるかで、受け取るものは違ってくると思います。ただ、あえて言うなら、「映画を撮るということはこういうことだ」ということを伝えたいのかもしれない。結論としては、映画を作る人間は、それが面白いかどうかでしか判断されないっていう。

――どのレイヤーにひっかかるかは、観る人のこれまでの人生やそこから育んだ考え方によって変わってくるんでしょうね。そのさいにおのおのの想像力、イマジネーションが重要になりそう。

佐々木 映画を作るのって想像力だし、観るのも想像力、行間を読むことも想像力。映画は見えないものを見せることもできる。観る人に、いかに想像させるかのテクニックでできていますから。

――イマジネーションって、共感の種。他者と共有して関係を結ぶためのものですよね。それは障がい者も健常者も違わない。

佐々木 たとえばジョージ・ルーカスが『スターウォーズ』を作ったときに、彼自身はなんとなく武器や乗り物などモヤっとしたものを提案するだけで、実際にはチームが手を動かしていた。『ゴーストヴィジョン』も変わらないと思います。僕はCMのようなチーム仕事もするし、1人で映画を作ることもある。どちらも自分が演出した映像作品です。大切なことは、その監督のビジョンを周囲がいかに解釈して共有するかなんですよ。

――なるほど。

佐々木 そのプロセスをじっくりと見せたのが『ナイトクルージング』。目の見える監督とスタッフとの間であれば省略されてしまうような他者とのイメージ共有のプロセス、つまり、コミュニケーションですよね。それが、目の見えない監督を主人公に据えることでよりわかりやすく浮き彫りにされる。

――今、世界で起きている問題の多くは、他者とのイメージの共有の不足、コミュニケーション不全、つまり、他者に値する想像力が足りないことに起因していると思うんですよ。

佐々木 結論はそこです。相手のことを想像するっていうことが大事なんですよ。だから、みんなが『ナイトクルージング』を観れば、世界は平和になります(笑)。

――人間が社会的動物になったのは、そのほうが生存に有利だったから。集団の中で、得意なことは自分でやって、苦手なことはそれが得意な別の人に任せる。それによって、種としての力を最大限に発揮できる社会的座組みをしてきたからこそ、いま僕たちはここにいる。それって、目の見えない加藤さんが『ゴーストヴィジョン』を完成させるプロセスと一緒だと思うんですね。ところが、時代は逆行している。

佐々木 映画制作の現場っての社会の縮図なんですよ。しかも、実体のないものを作っているわけじゃないですか。それも面白い。

――人間のビジョンとか未来なんて、みんな実体のないものですよね。

佐々木 そうなんです。それにみんな気づいていない。目が見えていることによって、実は何も見えていないんです。見えてると思っているからこそ見えていないんですよ。

■作品インフォ
『ナイトクルージング』

3月30日より、アップリンク渋谷ほか全国の映画館でで順次公開開始。

上映館:https://nightcruising.net/ja/screenings/
URL:https://nightcruising.net/

監督・撮影・編集:佐々木誠
主演:加藤秀幸
プロデューサー:田中みゆき

撮影:堀井威久麿 中尾浩嗣
整音:新橋宣彦

スチール撮影:大森克己 加藤甫
広報・テロップデザイン:長嶋りかこ 真崎嶺(village®)
ウェブ構築:藤本圭

インタビュー協力:大胡田亜矢子 岡野宏治 酒井香波 関場理生 曽根幸子 丹羽海斗
リサーチ協力:株式会社アイジェット 株式会社エーラボ カシオ計算機株式会社 クラブツーリズム株式会社 独立行政法人 国立科学博物館 佐川賢(日本女子大学) SINKA株式会社 新宿区立新宿歴史博物館 株式会社ゼンリン ツインリンクもてぎ

協力:株式会社アクロスエンタテインメント 稲川素子事務所 株式会社ウインクツー 株式会社大沢事務所 株式会社ノベンバーエージェンシー 株式会社フリー・ウエイブ 株式会社ぷろだくしょんバオバブ 足利瑞枝 塩田康一 水谷理 森本美花 矢口みどり

撮影協力:株式会社ウインクツー 京都市立芸術大学 株式会社クロースタジオ スタジオ・アルファ・ベガ doob-3d渋谷店 DOMMUNE マエカワギタークラフト ユーロライブ

音声ガイド脚本制作:田中みゆき
音声ガイドコーディネート・バリアフリー字幕制作:Palabra株式会社
英語字幕翻訳:蔭山歩美 ジョナサン・ホール

エンディングテーマ
「めたもるセブン」 けもの
作詞・作曲青羊 編曲トオイダイスケ
プロデューサー 菊地成孔
(Sony Music Artists Inc. / TABOO)

SF短編映画『ゴーストヴィジョン』

監督・脚本:加藤秀幸
監督助手・制作:佐々木誠
プロデューサー・制作:田中みゆき
録音・サウンドデザイン:新橋宣彦
録音:柞山京一

脚本協力:小林弘利
コンセプトイメージ協力:株式会社Luminous Productions/株式会社スクウェア・エニックス

シーン1
美術:金氏徹平
撮影:塩田哲也 加藤秀幸
照明:川島玲子
編集:佐々木誠

シーン2・4
株式会社ジャストコーズ プロダクション
プロデューサー:柴田拓也
ディレクター:小原健
アニメーター:平田智範
アニメーター:井田雅章
モーションキャプチャーオペレーション:宗兼深雪
モーションキャプチャーオペレーション:中島唯歌

シーン3・5
出演:小木戸利光、アルノ・ルギャル、Akira Toyoda
撮影監督:塩田哲也
DIT・編集:林和哉
制作:宮下昇
制作応援:菊嶌稔章
VFX:伴善徳
スタイリング:髙山エリ
スタイリストアシスタント:佐藤遥香
ヘアメイク:友森理恵

シーン6
制作ディレクション:山内祥太
協力:株式会社Luminous Productions/株式会社スクウェア・エニックス
VFXアーティスト:野副竜太
エンバイロメントアーティスト:上野功士
AIエンジニア:上段達弘
エンジニア:西澤亮太
リードAIリサーチャー:三宅陽一郎
開発マネージャー:長谷川朋広

声の出演:山寺宏一 神奈延年 能登麻美子 ロバート・ハリス 石丸博也

劇中曲
作曲:加藤秀幸
編曲・ドラム演奏(シーン2):イトケン

題字:加藤秀幸
タイトルアニメーション:御所園翔太(若羽メディアパーティ)

■作家インフォ

佐々木誠(ささき・まこと)

フリーディレクターとして主にCM、PV、TV番組などを演出。2006年、初監督ドキュメンタリー映画『フラグメント』がロードショー公開され、アメリカ、ドイツなど海外上映も含め3年以上のロングランとなる。翌年、オムニバス映画『裸over8』の一編として『マイノリティとセックスに関する2、3の事例』(2007年)が公開に。単体作品としても海外を含む各地で上映される。その後、『インナーヴィジョン』(2013年)、『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』(2015年)、『記憶との対話』(2016年)を発表。

2018年には『光を、観る』がカンヌライオンズに出品、『熱海の路地の子』が、オムニバス映画『プレイルーム』の一編として国内外で公開。他には『バイオハザード5 ビハインド・ザ・シーン』(2009年)、フジテレビNONFIX『バリアフリーコミュニケーション 僕たちはセックスしないの!? できないの!?』(2014年)などをの演出、紀里谷和明監督『GOEMON』(2008年)、夏帆主演『パズル』(2014年)など、多くの劇映画の脚本に関わる。

また、南カリフォルニア大学、東京大学、慶應大学などでの上映・講演、和田誠やロバート・ハリスらと定期的に映画についてのトークイベントなども行っている。マジョリティとマイノリティの境界線に焦点を当てた作品を多く手がけており、ドキュメンタリーという手法を用いながら、マイノリティの目線から社会のあり方そのものへの問題提起を行ってきた。

URL:http://sasaki-makoto.com/

文=渡邊浩行(モジラフ)

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