本当にあった「眼帯」にまつわる超怖い話 ー 死んだ少年が付いて来る…川奈まり子の実話怪談『僕の左に』

作家・川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。

【二十一】『僕の左に』(上)

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イメージ画像は「Getty Images」より引用

 脳研究者・池谷裕二の著書『脳には妙なクセがある』によれば、人が視野の左半分を重要視する一方で右半分を無視する傾向を《シュードネグレクト(疑似無視)効果》と呼ぶのだという。

 具体的にどんなシチュエーションが考えられるかというと、たとえば誰かがあなたを見ているとしたら、その人の左視野に入りやすいあなたの右側の方が注目されていることになり、左側は比較的、無視されている。

 また、たとえば、商品の陳列棚は左の方がお客の視線を惹きつけやすいから、左端に置かれた品物はよく売れる可能性がある。

 こんな風に例を挙げていったらキリがないが、とにかく、人間にとって左側か右側かということは単なる配置ではなく、深い意味を持つようだ。

 似たような学説は以前から動物行動学や深層心理学などでも唱えられている。曰く、人は両側に壁がある通路では左側を歩くことを好む。曰く、庇護したい相手を自分の左に、頼りにしている相手を自分の右に並ばせたがる。左側から接近するものを無意識に警戒する傾向も人類共通なのだという。

 29歳の会社員、清水諭司さんは、ある夏、いわゆるモノモライをこじらせて手術を受けた。

 後から思えば、膿を出せば治るのではないかと思い、瞼を裏返して爪でつねったのが良くなかった。その後、いつも眠気覚ましに使っている刺激の強い冷感タイプの目薬をさしたことも、判断を誤ったと言うべきかもしれない。

 そもそも、左の下瞼にしこりがあることに気づいてから2週間も放っておいたのがまずかった。

 夜、爪で患部を弄ったら、一晩のうちに面白いほど腫れあがり、上司から「今すぐ病院に行け」と命じられてしまったわけである。

 諭司さんは社会人になってから一度も医者にかかったことがないことを自慢にしていた。しかし実は単なる医者嫌いで、よほどのことがない限り病院に行かなかっただけなのだった。

 上司の命令とあっては仕方がない。会社の近くの眼科病院に行って診てもらったところ、手術を勧められてしまった次第である。

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