本当にあった「眼帯」にまつわる超怖い話 ー 死んだ少年が付いて来る…川奈まり子の実話怪談『僕の左に』

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イメージ画像は「Getty Images」より引用

 ――あの圭くんが、左側にいるような気がする。

 諭司さんは、急に圭くんの記憶を異常なまでにありありと蘇らせた理由を考えあぐねた。誰かに相談したかったが、こんなことを打ち明けられる相手と言ったら、両親しか思い浮かばない。

 普通は、いい歳をして馬鹿らしい妄想を膨らませる、と、嗤われるようなことかもしれない。しかし両親には、真面目に取り合ってもらえるだろうと予想した。

 圭くんが死んだ後の彼の苦悩を知っているのは、父と母だけだったから。

 手術当日と翌日は有給を取っていたので、手術の明くる日、会社を休むついでに両親に会いに行くことにした。

 思った通りで、父も母も、真剣に話を聞いてくれた。母は即座に、「圭くんのお墓参りに行きましょう」と宣言した。

「考えてみたら、もうすぐ命日よね? 再来週?」

「言われてみれば……。すっかり忘れてたよ」

「頑張って忘れたんだよ」と母が言うと、父もうなずいた。

「そうだよ。圭くんの事故の後、諭司は心療内科や精神科に半年も通って……。最初は大変だったじゃないか。胃潰瘍にまでなって。それがある日突然、圭くんのことを一切口に出さなくなったから、お母さんと話し合って、あえて思い出させるようなことは言わないようにしようと決めたんだ」

「……そうよ。だから、圭くんのおうちがすぐに引っ越されたのも、諭司のためには良かったなと思っていたの。申し訳ないけど、それがお母さんの本音」

「ああいう交通事故は誰のせいでもないんだよ。諭司のせいじゃないし、圭くんのせいでもない。轢いたトラックの運転手はもちろん不注意だったんだが、急に子どもが飛び出してきたわけだから、運が悪かった面もある」

 ――だけど死んだのは圭くんだけじゃないか!

 諭司さんは、どうしても罪の意識を覚えずにはいられなかった。いや、久しぶりに後悔をぶりかえらせたわけだが……。

 小2の二学期から小3の初め頃まで、記憶が飛んでいる。医者嫌いの原因は、おそらく、心因性の胃潰瘍になって治療中も散々苦しんだ経験がトラウマになったせいだ。

 圭くんの友情を裏切り、走って逃げた代償はそれなりにあった。しかし、自分は生きている。そして、今、忘れていた罪を思い出している。

「そうだわ! 諭司がモノモライに罹ったのって、ちょうどお盆の頃だったんじゃないの? 圭くん、お盆で帰ってきたのかしら?」

「お母さん、よしなさい。もうとっくに成仏してるよ。諭司も、あまり変な風に思い詰めるものじゃない。罪の意識がそういう幻覚を見せているだけなんだから。思い出しても心が壊れないぐらい、大人になったってことだよ。時が来た。だから思い出した。それだけだ。圭くんの墓参りに行って区切りをつけよう」

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