本当にあった北九州の「呪われた村」の怖い話が本当に恐ろしい! 馬の首、見てはいけない岩…実話怪談「血蟲の村」!

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画像は「Getty Images」より引用

 集落の近くには、行ってはいけない山もあった。そこには「馬の首」という物の怪が出没すると言い伝えられ、人々から恐れられていた。

「この界隈の杣人や農民は、戦国時代に落ち武者狩りをしたそうです。落ち武者を捕らえると報奨金が貰えたとか……。落ち武者の持ち物を奪ってもお咎めがなかったし、殺してしまっても構わなかったので、気の荒い連中はみんな、落ち武者狩りを熱心にやったと言われています。馬の首は、馬を持っている落ち武者を捕らえるたびに、馬を殺して食べていたところ、落ち武者の祟りで荒縄で吊るした馬の首が山沿いの川辺に現れるようになったというものでした」

 一種の妖怪のようだが、実際に、馬の首を斬り落として、川岸で食肉として処理したときの景色がこれの原型になっている節もある。

 美津子さんが7歳のときのことだ。

 8月のお盆の時季だった。夏休み中で、閑を持て余した美津子さんは炎天下の川べりでしばらく遊んでいたが、川の水もぬるま湯のようで涼をもたらさず、しばらくすると暑くてたまらなくなってしまった。

 日陰を探して周囲を見回すと、川の向こう岸の山が目に入った。

 そこは「足を踏み入れてはいけない」と日頃、母から厳しく戒められている山だった。馬の首という化け物が出るというのだ。馬の首と落ち武者殺しの言い伝えを聞いたこともあり、そのときは怖いと思った。

 しかし、山の傾斜は緩やかで、ほどよく樹々が生えていて、下生えがほとんどなく、歩きやすそうな日陰の地面が上の方まで続いているのが見えた。風が木の梢を揺らしていて、腐葉土が敷き詰められた地面は陽に晒された川原と違って、ひんやりと涼しそうな気がした。

 何も山の奥深くまで分け入ろうというのではない。麓のところで少し木陰を散歩するくらいなら、大丈夫なのではないか……。そう思いながらあらためて川の向こう岸を眺めると、薄暗く翳った山の地べたがますます涼しそうに見えてきた。

 それにまた、行ったことがない場所だという点にも魅力を感じた。

 酷暑の最中で川は水量が減って川幅が痩せ、いちばん深いところでも美津子さんの脛ぐらいのものだった。辺りには誰もいない。

 美津子さんは、思い切ってザブザブと川を渡った。

 山の木陰に入ると、期待以上に涼しかった。

 温度の低い風が絶えず吹き、地面からも冷気が上がってくる。

 嬉しくなって、ゆっくりと樹々の間を縫って登っていった。迷子になるといけないので、ときどき後ろを振り返って川の位置を確かめながら、のんびり歩いた。

 100メートルも歩いたか、どうか。

 山に入ってから少し経ったとき、突然、傾斜の上の方から、「チリン」と澄んだ鈴の音が聞こえてきた。

 見上げると、何かがこっちに向かって転がり落ちてくる。

 ゆるい傾斜だから、そんなに速くはない。それにまた、それはいびつな形をしていて転がりやすそうなものでもなかった。栗色をした何かが、ゴロリ、ゴロリ、と人が歩くような速度で転がっているのだ。

 転がるたびにチリン、チリン、と、鈴の音がしている。

 鈴の音と共にだんだん美津子さんに近づいてきて、間もなく、それが何か、明らかになった。

 馬の首だ!

 栗毛の馬の、首から上だけが、山の斜面を転がり落ちてきたのだ。

 チリンチリンと、なぜか鈴の音をさせながら、ゴロリ、ゴロリと転がって、それはとうとう美津子さんの足もとまで来た。

 目が生きていた。

 艶のある澄み切った黒い瞳が美津子さんを一瞥した。

 そしてまたゴロリと転がって、麓の方までゆっくりと落ちていった。

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