人身事故が多発する駅の恐怖「呪われた●番線の怨霊」を駅員が暴露! 川奈まり子の実話怪談~残留者~
絶対に見落としはないという自信があった。
下り線担当は、下り線のホームの安全確認をした後、階段や改札口などを巡回して、上り線のホームをチェックする。一方、上り線担当は、上り線のホームから出発して逆の順序で点検するのだ。
下り線担当の岡田さんとしては、内心、上り線担当の監視が緩かったのだろうと解釈するしかない。先輩も、それで納得するかと思われた。
ところが、ほどなく戻ってきた上り線担当の巡回当番も、「自分が見てきたところにも残留者はいなかった」と主張したのだ。
「2人とも、本当に確かめたのか? 黒っぽいスーツの男がいたはずなんだ!」
尖った声で詰問されても岡田さんと上り線担当は戸惑うばかり。
「早く探しに行きましょう」と副駅長が皆を促す。
「巡回で見つからなかったとしても、いることは間違いないんですから! 暗い色のスーツを着たサラリーマン風の男性が券売機の前を歩いているのが、監視カメラのライブ映像にはっきり映っていたんですよ」
事務所にある監視カメラ映像を映すモニターに、残留者の姿が鮮明に映しだされたというのである。それを見た者は5人。中には副駅長も含まれていた。
「あの辺りは今、外に出られないスペースになっていますから、急ぎましょう!」
過去には、残留者が駅構内で首吊り自殺を遂げてしまったこともあった。
もっとも、今回の残留者は袋の鼠も同然で捕まえるのは容易いことのはずだった。監視カメラに映った場所は、駅ビルの1階にある、ショッピングモールの出入口に前後を挟まれたスペースで、ショッピングモールの営業時間終了後は、どちらの出入口にもシャッターが下りているのだ。首を吊れそうな出っ張りも見当たらない。
しかし、ぐずぐずしているうちに何か思い切った行動を取らないとも限らないから、まずは全員でそこへ駆けつけたのだが……。
「いない! どこへ消えたんだ?」
それほど広くもなく、隠れる場所とて無い空間なのに、残留者は姿をくらましていた。
しかも、その後、手分けして駅構内をくまなく探したけれど、結局、猫の仔一匹見つけられなかった。
これだけでも不思議だが、さらにその後、事務所で監視カメラ映像の録画データを逆再生してみたところ、なんと、そこにも副駅長たちがライブ映像で確認したという残留者の姿を発見できないことが判明して、神秘の影がいよいよ濃く垂れこめてきたのである。
岡田さんも副駅長の肩越しにモニター画面を覗き込んでいたが、上り線担当の同僚や彼自身が後ろ歩きする姿をしばらく眺めさせられただけであった。
「……いなかった……ね?」
副駅長は画面に貼り付き、何度も巻き戻しては再生していたが、やがて諦めて、泣き笑いのような顔で駅員たちの方を振り向いた。
「あの男性の姿は、録画はされなかったんだな!」
そんな馬鹿な、と、誰しもが思うひと言だ。
しかし実際にそういうことが起きてしまったのだ。
信じがたいことではあるが、生中継には映り、録画はされないという異常な存在がいたことが確かだった。また、再三、録画を確かめた結果、おそらく岡田さんたち巡回担当者が、この残留者のそばを通ったに違ないことも明らかになった。
つまり、記録できないだけではなく、肉眼では姿を捉えられなかったのだ。
皆一様に青くなり、しんと静まり返った。
すでに午前2時だ。丑三つ時。外はぬばたまの闇に包まれているであろう。
暗闇に蠢く者たちを、誰もが意識せざるを得ない。重たい空気が流れた。
と、副駅長が唐突に明るい声を張り上げた。
「ま、長年この仕事をしてるといろいろあるよ! ハイ、この件はここまで! 解散、解散!」
パンパンと手を叩いてみせることまでしてみせる。
残念ながら目が泳いでおり、表情には怯えの色が隠しようもなく滲んでいたのだが、岡田さんたちは意気をくみ取って、帰途につくなり仮眠室に引っ込むなり、それぞれの日常に戻っていった。
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2024.10.02 20:00心霊人身事故が多発する駅の恐怖「呪われた●番線の怨霊」を駅員が暴露! 川奈まり子の実話怪談~残留者~のページです。首都圏、怪談、人身事故、川奈まり子、情ノ奇譚、駅員などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで