人身事故が多発する駅の恐怖「呪われた●番線の怨霊」を駅員が暴露! 川奈まり子の実話怪談~残留者~

 ――私は、岡田さんからここまで伺ったところで、危険な下り2番線ホームがあるこの駅の名前を読者の皆さんに対して明かせないことが心苦しくなってしまった。

 私はもう安全だ。そのホームには今後決して近づかないから。

 しかし、皆さんが危ない目に遭うかもしれないのを指をくわえて眺めているというのは、控えめに言っても楽しいものではない。

 けれども、岡田さんは、どうしても固有名詞を伏せてほしいとおっしゃる。

 そこで、彼との約束を破らない程度に、文章の中に幾つかヒントを散りばめてみた。前編から通して注意深くお読みいただければ、もしかするとわかるかもしれない。東京圏で私鉄をよく利用される方は推理されたら如何だろう。

 同じ場所で、今年もすでに2件、人身事故が起きているそうだから。

「あれからもうすぐ1年になりますが、今年のお正月にも、2番ホームの例の場所で酷い人身事故が発生しました。遺体や遺品の回収に、あれほど長時間かかることって珍しいんじゃないかな……。ええ、本当にバラバラで……。

 人の血の脂で着いたシミというのは落ちにくいものなんですよ。何ヶ月経っても、2番線の線路には、あのとき四散した頭皮がへばりついた痕跡が黒く残っています。

 この駅はトンネル構造で、線路が雨に洗われることがありませんから。バラスト(砂利)を交換しない限り、いつまでも跡が消えないんじゃないかな?

 今でも、血アブラの跡だらけですよ。

 僕は現場に居合わせてしまったので、剥がれた頭皮に髪がついていた様子を憶えています。髪の毛が、生きているみたいに艶々しててね……。

 つい先日も、やはり同じ場所で接触事故がありました。

 今回は幸運なことに打撲傷を負っただけで命に別状なく済みました!

 でもね……監視カメラの録画映像を再生して確認してみたら、ずっと2番線ホームの安全な場所を歩いていたのに、待合室の前に来た途端、急に列車の方へ引き寄せられていたのです!

 まあ、しかし、その人は酔っ払って千鳥足でした。だから、偶然あそこでよろめいただけだ……と、強引に自分を納得させようとしているところですが」

 岡田さんの話はさらに続く。ここから先は、いわゆる怪談ではないが、彼の職業ならではの人の死に関する体験談なので、記しておきたいと思う。

「人身事故で死者が出ると、昔は駅員がトングと袋を持って歩きまわり、遺体を回収していました。でも今は、まず真っ先に必ず刑事課に出動をお願いして、遺体回収は警察の方でやってもらうことになってるんですよ。現場検証をして事件性の有無を調べるために、警察が担当するようになったと聞いています。

 駅員みたいな素人が下手に触ると遺体を損傷させてしまって、検証に差しさわりが出ますからね。
けれども、警察が到着するまで少し時間がかかるわけですよ。

 その間、遺体を衆目に晒しておくわけにはいきません。そこで、駅員たちが手分けしてブルーシートで血痕や散乱した遺品を覆ったり、各駅に配布されてるご遺体用のシーツを遺体に掛けたりするわけです。

 また、僕たち信号扱者は、車両基地に詰めていることもあるのですが、付近の駅で人身事故が発生すると、人を跳ねた列車が、ゴトンゴトンと不吉なオーラを漂わせながら、僕らの基地にやってくるんですよ。

 信号扱者は、基地に勤務しているときに人身事故があると、事故車両を清掃のために基地に収容したり、運行ダイヤを正常化すべく計画を立てて作業したりと、とにかく目まぐるしい忙しさになる。だから事故が発生しないことを常に祈っているのですが、起きるときは起きてしまう……。

 車両基地に人を死に至らしめた列車が来るのは、それはそれは厭なものですよ。まず、臭いがね……。駅で人身事故があったときも同じですけど、内臓の臭いなんでしょうね。生臭くて酷い臭いで、時間が経っても薄まらないんです。

 車両清掃も大変です。車両の底にこびりついた血やら肉片やらを洗い流さなきゃいけませんから。
悲惨な人身事故があると、事故現場のホームや人を轢いた列車に、独特の気が生じるんですよ。

 人を轢いちゃった列車がゴトゴトと基地に来るにしても、事故現場に歩いて近づくにしても、接近するにつれてピーンと空気が張りつめるのがわかります。

 緊張感がみなぎる、硬質な感じがする異様な気が満ちる中で、線路に散乱したバラバラになった肉片や亡くなった方の持ち物を、警察が黙々と回収しているとするでしょう?

 すると、そういうときは変に景色を明るく感じる。暗くはない。明るいんです」

――聞いているうちに、無惨な光景が眩く照らされ、隅々まで網膜に焼きついてしまうような錯覚を私は覚えた。岡田さんの記憶を追体験したのだろうか。

 駅もまた、異界との境に在るに違いない。なるべく安寧であれと祈りつつ筆を措く。

文=川奈まり子

東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。
ツイッター:@MarikoKawana

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