人身事故が多発する駅の恐怖「呪われた●番線の怨霊」を駅員が暴露! 川奈まり子の実話怪談~残留者~
「残留者騒ぎがあった後に、僕は2、3回異動して、その間に信号扱者任用試験を受けてサービス係兼信号扱者になっていました。駅務兼信号扱者として現在の駅に配属されたのは、今から2年前のことです」
信号扱者は、鉄道信号を操作してダイヤグラムの調整を行い、人身事故等でダイヤが乱れた際には欠かせない人員だ。停車場での引き込み線への誘導や線の切り換えにも信号操作が不可欠だ。信号に関する作業は全てにおいて責任重大であり、専門知識と電子機器の取り扱い技術を要する。従って、見習任用試験、養成教育、修了試験というステップを踏まなければ就くことができない。
信号扱者になってから、岡田さんは、以前にも増して、発車した列車への旅客接近、触車、そして人身事故といった、ダイヤを乱す事案に対して敏感になった。
「駅で発生するトラブルとしては、人身事故の他にも、旅客同士の喧嘩、痴漢、盗撮などが挙げられます。どんなに我々が予防に努めても、駅のさまざまな場所でトラブルが起きて、防ぎ切れないのが実情なんですよ。駅は、広いものですから。……でも、この駅に来てしばらくすると、ここでは、ある決まった場所でトラブルが多発している事に気づきました」
その駅は、文教地区でもある閑静な高級住宅街から近く、ガラスをふんだんに使ったモダンで美しい駅舎を誇っている。駅前広場には緑の植栽が施され、駅直結のショッピングセンターがあって、日中に訪れると、非常に平穏で明るい雰囲気に満ちている。
乗降人員は1日あたり9万人弱。ホームは2面。乗り場は1番線から4番線まで。特急が停まり、地下鉄も乗り入れている。
つまり、駅の規模としては大きからず小さからず中の上クラスで、混雑するときはあっても繁華街を抱える都心の駅と違って、そう酷いことにはならない。
また、駅周辺の環境が良いため、旅客の身なりも一様に小綺麗で、学生や家族連れの姿も多く見られる。
私には、何ら問題がない駅だとしか思えなかった。
しかし、岡田さんによると、この駅には、人身事故をはじめとするトラブルが頻発する、いわば「魔のスポット」が存在するというのだ。
「1番線と2番線がある下りホームの上り方向の端に待合室とベンチが並んで備えつけられているのですが、どういうわけか、この付近に人身事故などのトラブルが集中しています。それも特に、2番線の側で深刻な事案が発生することが多いのです」
運転士から見てその辺が特に見通しが悪いということもなく、ホームの照明が不足していたり人目を邪魔する遮蔽物が多かったりといった犯罪を誘発する条件があるわけでもない。
しかし、喧嘩や泥酔者、痴漢、無茶な駆け込み乗車といったトラブルが起きるのは、必ずここ。
異動してきてから日が経つにつれ、岡田さんはそのことに気づき、対策を講じられないものかとも思ったが、監視カメラを設置したり巡回を手厚くしたりといった駅員が取れそうな対応はすでに実行されていた。
とはいえ気がかりで仕方がなかったので、日頃から何かと目を掛けてくれていた副駅長にこの話題を振ってみたところ、
「ああ、下りホームの待合室とベンチの辺りね。あそこには出るんだよ!」
と、笑顔で返されたのだった。
――終電後に構内を巡回していて、下りホーム2番線の待合室前に差し掛かると、後ろからハイヒールの靴音がする。
カッ、カッ、カッ、カッ、カッ……。
振り向くと、誰もいない。そこで首をひねりつつも、前を向いて歩きはじめる。
すると再び、ハイヒールの靴音が聞こえてくる。カッ、カッ……と、自分の2~3メートル後ろを、何度振り返ってみても姿は見えないが、足音だけが、階段を上ろうが通路を曲がろうが、改札口まで、ずうっとついてくるんだ――
なんとも恐ろしい話を聞いて、岡田さんは震えあがり、「副駅長が呪われてるんじゃありませんか?」と冗談めかして訊ねてみた。
だが、苦笑いの表情で首を横に振られてしまった。
「いやいや、違うのよ。2番線のハイヒールの女は、僕がここに来る前からいる内のひとり」
「えっ? じゃあ、この駅、他にも幽霊がいるんですか?」
まあね、と、副駅長は岡田さんに答えた。
「岡田さんも、おいおい知ることになると思うよ。さあ、仕事、仕事……」
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2024.10.02 20:00心霊人身事故が多発する駅の恐怖「呪われた●番線の怨霊」を駅員が暴露! 川奈まり子の実話怪談~残留者~のページです。首都圏、怪談、人身事故、川奈まり子、情ノ奇譚、駅員などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで