夢が現実になだれ込んでくる! 「LSD」の幻覚世界をくられが徹底解説【ググっても出ない毒薬の手帳】

 古来より宗教と幻覚剤はつながりが深く、ネイティブアメリカンのシャーマンが幻覚性サボテンやクサヨシなどの成分を組み合わせて幻覚体験をさせる特別な配合を使っていたり、アフリカでもイボガという植物が儀式に使われていました。イボガからもイボガインという幻覚成分が見つかっており、こちらもセロトニン骨格を持っています。

 さらにさらに昔、古代ギリシャではキュケオンという謎の秘薬が振る舞われていたと古文書に記されています。これはバッカクをなんらかの加工をして使っていたのではないかと言われています。バッカクのエルゴタミンは分子構造内にLSDを内蔵したような分子で、そこから何らかの形でLSDとして分解する古代の化学処理方法があったのかもしれません(残念ながら秘薬のレシピは残っていないため詳細は不明)。

 またセイオウアサガオにはLSDに似た構造を持つリゼルグ酸アミド(LSA)が含まれており、2016年におきた埼玉県朝霞市の少女監禁事件で、犯人がさらってきた女の子に服用させて洗脳に利用しようとしていたそうです(あまり効果はなかったようですが)。胡散臭いモノと幻覚剤は相性が良いようで、古今東西使われ続けているのです。

夢が現実になだれ込んでくる! 「LSD」の幻覚世界をくられが徹底解説【ググっても出ない毒薬の手帳】の画像4 分子構造をぱっと見すると、LSDは脳内の神経伝達物質であるセロトニンとは似ても似つかない感じがありますが、オレンジの部分に注目してもらえばわかるように、セロトニン構造を分子内に持っています。幻覚の発現には終末の窒素(N)にエチル基(Et)が2つついていることが重要なようで、誘導体のテストから、片方のエチル基を水素にすると幻覚活性が落ちることが知られています。

 LSDは立体構造が重要な薬物であり、紫外線などでも分解してしまうため、ドラッグとして出回るLSDもそれなりに施設の整った環境で合成しなければいけません。なので、どうやってこっそり大量に作っているのか謎です。おそらくは、ホームラボレベルで具合を見ながら職人的な合成を行っている人間がいるのでしょう。

文=くられ

添加物を駆使した食欲の失せるカラフルな料理やら、露悪的で馬鹿げた実験を紹介していく、「アリエナイ理科ノ教科書」の著者、サイエンスライター。現在週刊少年ジャンプで連載中の「Dr.STONE」のほか、漫画や小説などの科学監修も務める。近著は「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)「アリエナイ理科ノ大辞典」(三才ブックス)「毒物ずかん」(化学同人)など。
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