セックスを強要する美しすぎる「発光女」の生霊 ― 川奈まり子の実話怪談『いきすだま ~追う女~』
作家・川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。
【三十五】『いきすだま ~追う女~』
前回から引き続き、関西在住の貴司さんの体験談を綴らせていただこうと思う。
貴司さんがホストを辞めたのは、だいたい23年前のことだった。教養の高いパトロネスの影響もあり、将来を懸念するようになった彼は、一念発起して専門学校でIT関連の技術を学ぶなどして、25、6歳のとき、昼職に転向を果たしたのだ。
同時に、前職に就いていた折に縄張りだったエリアから数十キロ離れた都市に住まいを移した。転居したことには二つ理由があった。第一に、職住接近を図るため。そして第二に、夜職の誘惑に負けないために。
就職したのは中規模の広告デザイン会社で、ホストの方が遥かに実入りが良かった。しかし、決して後戻りはしないと決めていた。元はホストクラブの客だった彼女とも別れ、その他の多くの縁を断って新天地で1年も過ごした結果、貴司さんは、外見といい服装といい、何から何まで、別人のように生まれ変わった。
努力して手に入れた新しい自分と新しい仕事が、貴司さんは、とても気に入った。
仕事については、頑張りの成果だけではなく、運も味方した。好運なことに、良い上司と同僚に恵まれた、非常に働きやすい職場だったのだ。オフィスが拠点駅に近い目抜き通りに面したビルの1階にあって、歩道側の壁がガラス張りになっていることだけが、ここの唯一の欠点だった。
元は車か何かのショールームとして造られた物件だったようで、外から室内が丸見えなのだ。
初めのうちは、水槽の熱帯魚の如く、往来する人々に観賞されそうでヒヤヒヤした。しかし、暫くすると、たまに下校途中の小学生や幼児が興味深そうな視線を向けてくることがある程度で、滅多に外から覗き込まれはしないことがわかってきて、やがて少しも気にならなくなった。
正社員として採用されており、貴司さんは当分の間、この会社を辞めるつもりはなかった。
さて、ここまでが前置きだ。
頃は2000年。元号に直すと平成12年で、総理大臣は春先までは小渕恵三、4月からは森喜朗、シドニーオリンピックがあり、歌謡曲では福山雅治の「桜坂」などが流行り、2千円札が発行された年と言ったら、当時の時代の空気をなんとなく思い出していただけるだろうか(ある程度の年代以上の方に限られてしまうけれども)。
尚、カメラ付き携帯電話がブレイクするのは翌2001年のことで、この頃はまだカメラ機能が搭載された携帯電話はほとんどなかった。スマホは当然存在しない。SNSやライブチャットで連絡を取り合うことはまだ一般的でなく、携帯電話で人と交流する手段といえば、声による通話とメールが主流だった。
貴司さんも二つ折りタイプの携帯電話を持っていた。
――マミという女の連絡先をその携帯電話に登録したのは、デザイン会社に就職して半年が過ぎた頃だった。
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